日米独の債券相場について、当面どうみるか。筆者は、ドイツの国債については、10年債利回りが2.50%まで下がった6月8日時点が「質への逃避」を原動力にした買いの流れのピークだったと考えている。今後は、欧州通貨統合の先行きや欧州の経済・金融システムについての極端な悲観論が後退していく中で、ドイツの国債利回りについては上昇圧力がある程度強まるのではないかと予想している。一方、米国については、景気やコアインフレの下振れへの警戒感が今後さらに強まることが予想されるため、債券については押し目買いが有効だろう。
ユーロ圏 |
◆すでに7500億ユーロ規模の金融支援スキームが打ち出されているだけに、スペイン国債がデフォルトする可能性は非常に低いと考えるのが順当。しかも、ファンロンパイEU大統領が6月10日発売の雑誌インタビューで、「不十分と判断したら増額する」と言明している。 ◆スペイン経済省関係者が6月17日、7月に期日を迎える240億ユーロの債務を返済するために債券を発行する必要はないことを明らかにした(ロイター)。確かに、スペインはギリシャとは違うようである。同日に行われたスペイン国債の入札は無事終了した。 ◆欧州版ストレステストの結果を7月後半に公表することが、6月17日に開催されたEU首脳会議で合意された。EU外交筋は大手25行が対象になると語っている(ロイター)。米国のストレステスト公表時にも言われたことだが、極端に悪い結果も、まったく問題なしという結果も、いずれも出てきにくい。確かに問題はあるけれども増資・公的支援などで対応可能な範囲内、という結論に、予定調和的に落ち着きやすいのではないか。 ストレステストの公表は、米国の事例と同様に、市場の不安心理を減退させる方向で寄与することになると予想される。ただし、留意すべき点がいくつかある。例えば、マクロ経済や金融市場動向の前提の置き方次第で、結論は大きく変わってくるということ。また、金融システム問題のチェックポイントは大手行だけではない。米国では地方中小金融機関の経営破綻が続いている。ユーロ圏も同じような構図になるとすれば、景気の回復力が金融システム面から制約されるという点についても米国と同じ、ということになるだろう。 ◆ユーロ相場下落による経済的メリットが出てきたことを示す経済統計が、ドイツで出始めている(製造業受注、鉱工業生産)。 |
米国 |
◆米国の景気の先行き不安が再燃している。5月の米主要経済統計で、目立って強かったのは鉱工業生産くらい。その生産についても、鉱工業の設備稼働率はなお75%を下回っており、設備投資意欲を喚起するような水準までは距離がある。一方、弱かったのは、雇用統計(民間部門の雇用創出力の弱さが浮きぼりに)、小売売上高(減税還付や住宅減税といった特殊要因が剥落して8カ月ぶりに前月比減少)、住宅着工戸数(住宅減税終了前の駆け込みの反動が表面化)など。雇用・消費・住宅は家計部門の話であり、米国経済のメインエンジンである個人消費の今後は楽観できない。 ◆そうした状況に上乗せされてきたのが、欧州発の米景気悪化要因である。バーナンキFRB議長は6月9日の議会証言で、欧州信用不安問題(およびユーロ安ドル高)について、米企業の輸出競争力が低下し、欧州で事業展開している米企業のドルベースの収益が目減りする一方で、住宅ローン金利を含む長期金利の低下や原油など資源価格の下落というメリットもあると、両論併記でコメントした(6月11日作成「ユーロ安進行に対する米国の『受忍限度』」参照)。ベアーFDIC総裁も、ユーロ安ドル高には良し悪しがあるとした。しかし、6月18日のウォールストリート・ジャーナル紙に掲載されたインタビューで、コーンFRB副議長は、「欧州はリスクだ(Europe is a risk.)」と明言。欧州の問題は今年の残りの期間と来年、米国の経済成長にある程度の影響を与えるだろうと述べて、FOMCが四半期ごとに提示している実質GDP見通しの小幅下方修正に含みを持たせた。 ◆ドル高による経済的デメリットが出てきたことを示す経済統計はまだ少ないが、今後、ISM製造業指数の輸出受注や、貿易収支における輸出の伸びに、一層注目する必要がある。 ◆このほか、コアインフレの下振れリスクが継続中。サンフランシスコ連銀のエコノミストが6月14日の論文で示していたように、FRBによる利上げの時期が2012年に入ってからにずれ込む可能性が増大している(6月15日作成「『ボトム水準』が長期化」参照)。 |
出所: みずほ証券金融市場調査部