世界を席巻するかに見えた日本の半導体産業が、その後、勢いが急速に落ちて韓国や台湾などのメーカーに抜かれていく理由は何なのか。様々な角度から検証しているシリーズ企画(サムスン電子のエース部署が日本では「左遷」部署?)。

世界中のニーズにアンテナを張り巡らすサムスン電子

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強いリーダーシップでサムスン・グループを引っ張ってきた李健熙(イ・ゴンヒ)会長〔AFPBB News

 今回は、メモリーで世界ナンバーワンになったサムスン電子ではエースが集まる部署なのに、日本では左遷部署と見られている部門に焦点を当てた。

 そこはマーケティング部隊である。全世界に高いアンテナを立てて顧客ニーズに目を光らせ、新しい製品の開発につなげていく。半導体産業でもマーケットインの考え方が必要だという強い信念の下に取り組んできたわけだ。それがサムスン電子が躍進する原動力になったと筆者は言う。

 一方、技術に偏重する傾向がある日本の半導体メーカーは、マーケティング部隊にはあまり力を入れてこなかった。それは、そこにかける人員にまず顕著に現れている。

 サムスン電子では300人ものマーケッターたちが働いているのに、日本メーカーの場合は2ケタも少ないという。つまり、10人以下だ。圧倒的な差と言ってよい。

 しかも、サムスン電子の場合には特に優秀な人材がここに集まる。一方の日本は数字にも現れているように、明らかに戦略的な部署ではなく、一流の人材が集まっているとは言い難い。質と量ともに負けていては、サムスン電子に勝つことは不可能だろう。

半導体で高い技術力を誇るIBM

 では、日本は技術志向が強いから最先端技術を次々と開発しているかと言うと、そうでもない。もうかなり前になってしまうが、米国のニューヨーク州にあるIBMの半導体の研究開発拠点であるイーストフィッシュキル工場に取材に訪れたことがある。

 そこは最先端の半導体技術を次々と生み出している。IBMと言うとメーンフレームやサーバー、そしてそれらを組み合わせたITの総合サービス企業というイメージが強いが、実は半導体の技術革新では世界のリーダー的役割も演じている。

 イーストフィッシュキルの半導体工場では、日本の半導体工場がほとんど無人に近い工場だったのに対し、クリーンルーム内には人がいっぱいる。日本が誇る無人搬送車のような合理化機械もほとんどなく、人間が半導体ウエハーを運んでいた。そして、「ここでは作業員が1日に1万メートル以上歩くんですよ」と自慢されたのを覚えている。

 実は最先端というのは人間が生み出すものであって、機械は作ってくれない。新しい半導体には新しいハンドリングが必要になるかもしれない。機械化してしまっては革新が生まれないという考えによる。

 日本の半導体は、高級なIT機器や家電製品向けの量産は強い。しかし、サムスン電子が狙うような汎用で価格は安いが非常に市場が大きいところと、IBMのような最先端には意外に弱いようである。ここは量産技術と先端技術に挟まれた中途半端なポジショニングと言える。

素直に韓国を真似ることも必要なのでは

 日米半導体協定によって弱体化を余儀なくされた日本の半導体産業は、ある意味、気の毒な産業だった。しかし、サムスン電子の活躍などを見れば、日本でもやりようはあるはずだ。何を始めるにも遅すぎるということはない。

 欧米に追いつけ追い越せで欧米の技術や手法を取り込み急成長した日本の企業が、韓国の企業だからと言って世界一の企業を真似ていけないこともないだろう。

 半導体は産業のコメと言われて久しいが、現在でもそれは生き続けているどころか、ITやインターネットの発展でますます重要な産業になっている。自動車だって今や半導体の塊と化しているのだ。

 技術力の高い日本の半導体メーカーの奮起に期待したい。

 その際、この記事でも再三指摘されているように、過去の成功体験でものを語るのではなく、謙虚に現状を見つめ直し、若くバイタリティーあふれた人たちに任せることが重要ではないだろうか。