3月5日から17日にかけて中国では第12期全国人民代表大会(全人代)第1回会議が開催された。国会に相当する同会議で、習近平が国家中央軍事委員会主席ならびに国家主席に選出され、李克強が国務院総理に選出されたことによって、胡錦濤・温家宝体制にピリオドが打たれ、新たに習近平・李克強体制がスタートした。

 今回の全人代の注目点は、国務院の大胆な機構改革によって、経済改革を深化させる態勢ができるかどうかであった。

 中国ではすでに人口ボーナス期が終わりを迎え、労働力不足が現実のものになりつつある(「ルイスの転換点」)。加えて、国民所得が5000ドルラインに乗ってきたことにより、今後先進国入りするためにさらなる生産性の向上、産業におけるイノベーションが求められる(「中所得の罠」)。かつ、計画経済を象徴する国有企業の優位性を切り崩して市場経済化をさらに進めるために既得権益層の抵抗を排除できるかどうか(「体制移行の罠」)が問われていた。

 機構改革の結果は残念ながら大したことはなかった。とはいえ、軍部の権益であった鉄道部が解体され、「国家鉄路局」として交通運輸部に吸収されることになった。鉄道部は2011年2月に劉志軍部長が汚職で解任され、また同年7月には中国高速鉄道での衝突脱線事故で大きくイメージダウンしており、今回の吸収併合に強く抵抗できなかったことが分かる。また、一人っ子政策を担当してきた「国家人口計画生育委員会」が、「国家衛生計画生育委員会」と名称を部分変更し、衛生部を吸収合併した。本格的な少子化時代を迎える中国が政策の見直しを迫られている現実が窺える。結局、日本の「省」に相当する「部」が27から25に減っただけだった。

海洋の管理に関する権限を集約し大幅に強化

 しかし、もう1つ重大な組織変更が今回の全人代で決定した。それは海洋管理部門の改変である。一言でいえば「国家海洋局」の権限強化と公安警察権限の導入であり、中国の海上法執行機関の大胆な統合だった。

 これは、中国にとって長年の懸案でありながら、まさに関係各部門間の既得権益がぶつかり合ったため実現が阻まれてきたものだった。この統合問題については、ちょうど1年前に本欄で取り上げた(「中国は第2の海軍をつくるのか、海上の衝突に対処する『沿岸警備隊』構想」)。