円安と株高を背景に日本経済は少し明るさを取り戻している。これをさらに推し進めるために、安倍政権は日銀に対してより高いインフレ目標を設定するよう求めている。

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12月23日のテレビ番組で日銀法の改正に言及した安倍首相〔AFPBB News

 日銀は11月まで従来の路線を守ろうとする姿勢が強かったが、12月の総選挙後、突然柔軟姿勢に転じたように見える。中央銀行の独立性を重視する立場の人たちは、日銀が政治の圧力に屈した印象を与えるこの変化に失望し、通貨価値の維持機能の低下や国債の暴落リスクの高まりに不安を覚えている。

 政治家、官僚、経済人、学者の中に通貨価値の安定を目指すという目標を否定する人はいない。短期的に円の通貨価値を低下させて円安にすることを期待している人たちも、中長期的には日本経済が活性化し、実力に応じて円高に向かうことには賛成するはずだ。

政府と日銀の間に摩擦が生じる理由

 日本が目指すべき目標は、日本経済の活力を回復させ、実質成長率を高め、デフレから脱却し、失業を減らすことであるという点も殆どの人々のコンセンサスである。ではなぜ同じ目標を持つ政府と日銀の間に摩擦が生じるのか。それは経済政策全体についての共通理解と相互信頼関係が十分確立されていないためである。

 政府の各部門と日銀が上記の共通目標の達成のために、日頃から個々の政策メニューの組み合わせ方について各組織の担当分野の壁を越えて十分に議論を重ねて、相互信頼関係の下に互いに協力し合っていれば、今見られているような摩擦はかなり緩和されるはずである。

 各省庁と日銀はどこもみな縦割り的体質が染み付いており、自分の庭先のことばかりに執着し、横断的政策連携が十分とは言えない。また、自分の組織の予算や権限が縮小するような政策に対しては、たとえそれが国益に資することが分かっていても、組織の利害を優先して反対する体質が改められていない。

 日本経済を活性化するためには金融政策のほかに、財政政策、産業政策、通商政策、税制、社会保障政策など主な政策手段をうまく組み合わせることが必要である。その中で、マクロ経済政策の代表である金融政策と財政政策は経済のスピード調整機能を担う。一方、その他の政策は日本企業の競争力を強化し、政府の効率化を図る体質改善・強化機能を担う。

 少し噛み砕いて主な手段と目標を列挙してみれば、(1)各種規制緩和による健全な競争の促進とそれを通じた生産性の向上、(2)企業に対する減税や補助金による企業の収益力の増大と雇用の確保、(3)政策分野別の適切な財政配分による政府機能の効率化、(4)所得税・消費税や社会保障給付水準の見直しによる財政赤字の削減、(5)TPP・FTAの推進や外交関係の緊密化等を通じた貿易・投資環境の改善などである。

 これらの体質改善・強化政策によって企業が活力を取り戻し、成長率を押し上げ、財政赤字を減らすことが日本の目標である。