クリエイティブなことが大好きだった少女ヴェロ・ケアン(Vero Kern)は、人生の半ばをだいぶ過ぎて、自分の好きな香水を作った。その名も自分の名前をとって「vero.profumo」。
大量生産の香水があふれかえる世の中で、ヴェロが120年前の昔ながらの作り方で創り出す香水は、香水好きの男女を惹きつけてやまない。
今ヴェロは70代にさしかかった。チューリヒの彼女のアトリエで、香水への思いを聞いた。(文中敬称略)
昔ながらの製法の香を、極上のボトルにつめて
桃色の口紅が若々しさを一層引き立てるヴェロ。彼女の香水を紹介した記事を初めて読んだときから、ずっと会いたいと思っていた人だ。香水が特別なのはもちろんのこと、その変わった生き方に私は興味を持った。
ヴェロの香水は、「onda」「kiki」「rubj」の3種類からスタートした。普通、香水は濃度によって呼び方が違うが、この茶色い小瓶3種は1番濃度の高いExtraitsだ。ヴェロが私の目の前で見せてくれたように、透明の栓を持ち上げて開け、栓の内部についた数滴をほんの少し肌につけるだけでいい。
サイズは大小2つ。小さいサイズは手のひらにすっかり納まる。「だから、外出時にも気軽に持ち歩けるし、旅行に持っていくにも便利なのよ」とヴェロ。
vero.profumoは、高品質の自然の素材だけを調合してある。インド産の植物ベチバー、ショウガ、コリアンダー、ラベンダー、キャラメル、ムスク、オレンジブラッサム、エジプト産ジャスミンなど、ヴェロが世界中から集めた約300種から選んだものだ。昔(1889年から100年間)のフランス産の香水のように自然の素材だけで作り、生産量も少なめだ。
納得のいくこの3種類を完成させるまでに、ヴェロは5年を費やした。このころ、ヴェロはすでに60歳を超え、貯金は香水を学ぶためにすでに使い果たしていた。収入は後述する自作のアロマオイルを売って、なんとか得ていただけ。そのお金は素材に費やした。それでも「自分の好きなことができて、本当に毎日幸せだったわ」と言う。
「まず、約300種の自然の素材の1つ1つの香りを覚えることが必要だったの。名前を挙げたら一瞬でその香りが正確に浮かんでくるようにして。それから、この素材とあの素材を合わせたらどんなふうだろうって想像して。学校で学んだことは基礎。何度もトライすることが大切で、調合の具合には本当に時間がかかったわ」