尖閣諸島を巡る日中紛争に関して、「ニューヨーク・タイムス」など多くのアメリカのメディアで中国寄りの報道がなされたり、中国側ロビイストによる宣伝活動などが盛んに行われている状況が日本でも取り沙汰されている。
しかし、アメリカの全てのメディアの論調がどちらか一方に偏っているというわけではなく、中国の傍若無人な対応に眉をひそめる論調も決して少なくない。
中でも、オンライン新聞の「クリスチャン・サイエンス・モニター」(10月25日付)に掲載された「日中尖閣紛争において、アメリカは日本支持を明確にせよ」という論文は、日米軍事同盟が存在するにもかかわらず尖閣諸島領有権紛争に関してアメリカ政府が取り続けている曖昧な態度の危険性を論じ、明確に日本支持を打ち出すべきである旨の提言をなしている(注:「クリスチャン・サイエンス・モニター」は1908年にボストンで創刊された新聞。2009年よりオンライン新聞に移行している)。
この論説は、アメリカの政府諸機関での勤務経験も豊富な元外交官で、日本在住も長く、日本そして日本周辺の軍事外交問題に造詣が深いニューシャム氏が記したものである。
幸い、筆者は氏と親交があるので、尖閣問題をはじめ日中の軍事問題に関しては何度も話し合ったことがある。そこで、この論説の要旨を筆者なりに補足しながら紹介してみよう(したがって、以下の文章はニューシャム氏の主張に沿っているが、文責は筆者にある)。
「曖昧戦略」は尖閣問題には通用しない
ここ数年来、中国の尖閣諸島に対する領有権の主張は激しさを増しつつある。日本も中国もともにアメリカにとっては重要な貿易相手国であるため、アメリカ政府は日本と中国の双方と良い関係を保とうとしている。そのため、アメリカ政府は日中両国間の尖閣諸島を巡る軋轢に対しては、日本の施政権は認めるが領有権については明確な態度を公に示すことに躊躇している。
中国軍が尖閣諸島に侵攻した場合に日米安全保障条約を真面目に適用すればアメリカの軍事的介入は義務とも言えるものであるにもかかわらず、アメリカ政府はまるで言葉遊びとも思えるような曖昧な表現を弄して確定的態度を避けているのである。
外交的に対立している国々に対する外交政策において、どちらの側とも良好な関係を維持するために、アメリカ政府としての方針を完全に鮮明にしないという曖昧戦略は確かに有用である。しかし、日中間における尖閣諸島領有権紛争に対しては、この戦略は当てはまらない。すなわち、アメリカ政府がはっきりとどちらのサイドに立つかを鮮明にしなければならないときが遅かれ早かれやって来るに違いない。