原子力防災の元実務技術者である永嶋國雄さん(71)へのインタビューをお届けしている。永嶋さんの名前を教えてくれたのは、『原子力防災』の著者、松野元さんだった。永嶋さんは、松野さん同様、原発事故に備えた防災システムの設計に関わり、危険を警告していた人物で、『原子力防災』の共著者にもなるはずだった。
政府は巨額の予算を投じて、原子力発電所のシビアアクシデントに対する防災システムを構築していた。しかし、3.11ではそうしたシステムがまったく生かされなかった、という話を前回聞いた。今回は、国が実施していた「原子力総合防災訓練」の欠陥や、事故発生後に官邸と現場で積み重なった判断ミスなどについて話を聞いた。
避難範囲を10キロ圏内に抑え込むべきだった東電の責任
──国は「原子力総合防災訓練」を3年に1回やってるはずなんですよ。2008年には福島第一原発でやってるんです。菅内閣の閣僚だって2010年に浜岡原発を舞台にやってる。訓練をしたのに、なぜ本番ではまったくできなかったのか、不思議なんです。
「地震の大きさは事前には決められません。が、原発災害は、放射能が出る量を勝手に決めてしまえる。要するに『放射能の出る量はこの程度にしておこう』と想定を決める。それが政府の決めた『防災指針』の『避難範囲10キロメートル』というやつです。『10キロメートルに影響する量でやりましょう』と勝手に決めるんです。ところが、今回は現実が30キロメートルを超える拡散になったから、もう何もできなかった。逆に10キロメートル内だったら、菅(直人)総理も出る幕が全然なかったかもしれない。訓練はみんなそれでやってるから」
──2010年の訓練では「10キロメートル内避難」でした。それは「10キロメートルが避難しなくてはならない事故の規模を想定して訓練をやりましょう」ということですね。逆立ちしたロジックですね。
「どこに責任があるか。電力会社は10キロメートルだって100キロメートルだっていくらでも出せるんですよ。その時の電力会社の役割としては『事故が起きても避難は10キロメートル以下に抑える』という責任でずっと今までやってきてるんです。これは、世界どこでもそうなんです。電力会社が絶対に10キロメートル以下に抑える。だから国とか県とか全てが、10キロメートルに相当するシナリオで防災体制を組んでるわけですよ」