随分と昔、モスクワに長く住まわれていたある日本人の方から、「日本人とロシア人って、悪いところはよく似ているんですよね」と聞かされたことがあった。

 当時は、あれもダメ、これもない、のソ連の中で、非効率極まりない貿易公団相手のビジネスに四苦八苦だったから、恨み嘆きも溜まりに溜まりで、ロシア人の悪いところなど数限りなく挙げて見せる、くらいの気持ちでいたものだ。

ロシアと日本の共通点

 では、その中でどれが日本人と共通しているのかで、浪花節、嫉妬深さ、人の足を引っ張る狭量、日和見主義、自信の欠如、ごまかしと嘘、といった個人的体験の中で得たロシア人の性癖らしさを挙げてみて、日本人のそれを重ね合わせて考えたりもしてみた。

 こうした人間の欠点・欠陥は、ロシア人や日本人に別段限った話ではないし、他人の優れた点や昇格を素直に認め、自分の信念を持って正直さを通すロシア人や日本人だっていないはずはない。

 従って、個々人の振る舞いを国民全体にまで敷衍するのは、はなはだ危険なことでもある。1970年代後半から80年代にわたって盛んに取り上げられた「日本人論」が、バブル崩壊とともに消え去ったことを思えば、民族(俗)論まがいは、しょせんは眉唾でしかないのかもしれない。

 その危険を承知のうえで、なのだが、改めてロシアや日本に国や国民としての似た点があるか、と問えば、何となくありそうな気がしてくる。

 最初に思い浮かぶのは、これまでの歴史の中でいずれもが文明後進国の立場にあって、そこからの脱却願望や逆に先進文明国に対する虚勢を張ることに精一杯だった、という点だろう。

 江戸末期の開国以前でも、日本には文化での超先進国・中国王朝が厳然と存在し、開国以後は文明開化・脱亜入欧、殖産興業・富国強兵で何とか坂の上の雲を眺めるまでには到ったが、そこからはどうしたものの弾みでか、英米に逆らう形で神国・日本と大東亜共栄圏に突き進んでいく。

 ロシアの文明開化は日本より150年以上早く、1700年代初めにピョートル大帝が欧州に範をとったことで始まった。

 しかし、強兵策には走ったものの、廃藩置県や地租改正があったわけでもなく、肝心な欧州の産業革命にはまだ早かったから、殖産興業が本格化したのは1850年代のクリミヤ戦争で欧州列強にボロ負けしてからだった。