日銀は2010年5月の金融経済月報で、景気判断を「緩やかに回復しつつある」と上方修正した。

 判断に「回復」の2文字が登場するのは2006年6月以来、約4年ぶり。前回の「回復」局面では量的緩和の解除(2006年3月)にこぎ着けたが、今回は逆かもしれない。日本が頼みとする海外経済はユーロ圏が大荒れになるなど、暗雲が広がっているためだ。危うい回復判断は短期間で修正を余儀なくされる恐れがある。

3月から3カ月連続の景気判断引き上げ

 日銀はこのところ連続して判断を引き上げている。

日銀総裁「日本経済は当面停滞」 過度の利下げには警戒

3月から3カ月連続で景気判断を引き上げ〔AFPBB News

 3月は民間需要の自律的な回復力はなお弱いものの、内外の景気対策の効果などから「景気は持ち直している」と分析。

 4月は「景気は持ち直しを続けている」とした。3月と似たような表現だが、白川方明総裁は「持ち直しの持続傾向がより明らかになったため、先月から一歩判断を進めた」と言明した。

 そして5月は「景気は、海外経済の改善を起点として、緩やかに回復しつつある」と明確な上方修正を行った。これは海外経済の改善が続き、輸出増加が顕著となったためだ。欧米経済の回復は極めて緩やかながらも、中国など新興国経済が好調で、日本は好調な輸出を背景に「自律回復の芽が出てきたことが確認できた」(白川総裁)というわけだ。

ドイツの空売り規制で、ユーロ安・円高に

1ドル=94円台、ユーロは全面安 24日NY外国為替市場

ユーロ急落の裏側で円高が進んだ〔AFPBB News

 ただ、金融市場では日銀の景気判断に対しては「楽観的過ぎるのではないか」(外資系証券エコノミスト)との受け止め方が多い。確かに2010年1-3月期の実質国内総生産(GDP)が年率4.9%増加するなど経済指標は回復を裏付けるが、ギリシャの債務危機に端を発した欧州金融市場の混乱は「グローバルな経済調整に発展するリスクがある」(大手生保運用担当者)ためだ。

 間の悪いことに、日銀が景気判断を引き上げた5月20~21日の金融政策決定会合前後から金融市場の地合いは急速に弱まった。直前の19日、ドイツ政府は現物の手当てがないユーロ圏の国債などの空売りを禁止する措置を発動した。規制を嫌ったマネーは一斉にユーロ圏から流出。世界的な株安を誘発すると同時に、外為市場ではユーロが急落した。当然、その裏側では円高が進行する事態となった。