東京大学医科学研究所の上昌広・特任教授は、東日本大震災が発生した直後から被災地に入り、現在までずっと医療支援を続けている。2011年5月に上教授が中心になって飯舘村で行った健康診断・相談会の様子は前に「福島を『聖地』にするか『廃墟』にするか」で紹介した。

 その上教授が被災から約1年半が経った今までの活動をまとめた本『復興は現場から動き出す』を出版した。強いリーダーシップのもとで急速な復興を遂げている地域がある一方で、何事もお上任せで遅々として進まない地域もある。その違いはどこから来るのか。

 東北の復興は、日本が抱えている問題の縮図とも言える。その意味で、この本を読むと日本が今後どのように進むべきかのヒントが数多く見えてくる。ぜひ一読をお勧めしたい。その前に以下の上教授インタビューもお読みいただけると面白さが倍増すると思う。

 なおこの記事のタイトルは故・網野善彦さんの名著『日本の歴史をよみなおす』を参考にさせていただいた。

自立した個人を起点に、復興への取り組みが連鎖する

川嶋 ご著書の『復興は現場から動き出す』、興味深く拝読しました。まずはこれを書こうと思われた動機を教えてください。

復興は現場から動き出す』(上昌広著、東洋経済新報社、1890円・税込)

 被災地は歴史的転換期に直面しています。ところが、官はうまく機能していない。皆さんこの状況を批判しますが、ある意味で仕方ないんです。

 それは未曽有の災害に直面し、確立された解決法がないからです。当面は自分たちで試行錯誤を繰り返すしかありません。

 その際、求められるのは旧弊にとらわれないリーダーです。ちょうど戦国時代を終焉に導いた織田信長をイメージするといいでしょう。新しい時代を切り開くのは、いつも「個人」です。

 メディアは「個人」よりも「組織」や「制度」が重要だと主張しますが、「組織」や「制度」が重要になるのはもっと後です。

 戦国時代でも、信長の後に秀吉のような伝統的支配が生まれ、やがて徳川時代の制度的支配へと移行しました。徳川四代将軍の名前など知らない人の方が多いでしょう。被災地は、まだまだそんな状況ではありません。

 被災地が置かれた状況は多様です。東京では福島というとみんな一緒に見えますけれど、地域によっても、人によっても全然違う。違う者同士が悪戦苦闘してコンセンサスに向かっているんです。

 こうした現状を伝えようという場合、学術論文、特に医学論文はなじまない。それは近代医学は「人は皆同じである」という前提に立つからです。人間の営みを記録するには限界がある。

 むしろ有効なのは映画とかドラマで、次は本でしょう。この本を執筆したのも、個人の活動という視点で、現地で起こっていることをまとめたいと思ったことが動機です。

川嶋 いろいろな方のエピソードが載っているのはそのためですね。原発被災地の医療に早くから携わっている坪倉正治医師や亀田総合病院の小松秀樹副院長の奮闘もさることながら、印象的なのは相馬高校の先生(震災発生時、現在は新地高校教員)、高村泰広さんです。

 私は自立した個人の動きから連鎖的に広がる草の根ネットワークこそが、復興を進める大きな力になると考えています。高村さんはまさに象徴的な人物でしょう。