インドネシアは中国やインドの陰に隠れてあまり注目されることがないが、人口2億3000万人を擁するアジアの大国だ。そのインドネシアを農業に関連した調査で訪問する機会があった。
今回4年ぶりであったが、その間の変貌に驚いた。経済が急速に発展し、着実に豊かになっている。以前は、近代的なビルの谷間にスラム街があったのだが、それがきれいになくなっている。そして車の数が驚異的に増加している。
ジャカルタ市内の道路は車であふれている。その混雑は経済発展を象徴するものと言ってよいが、その混み方が尋常でない。ほんの数キロメートル移動するのに1時間以上かかる。人口が集中しているのに、地下鉄などの公共交通網の整備が遅れているからだ。ジャカルタ市は道路にバス専用レーンを設けるなどの対応をはかっているが、その程度では急速に増える首都の人口をさばききれない。
特に朝夕の通勤時は地獄である。多くの人は郊外に住んでいるが、中心部へ乗り入れる交通手段はバスと自動車しかない。ただ、バス専用レーンはそれほど多くないから、バスを乗り継いでの通勤や通学は大変である。自動車で市内に通勤するには、朝6時に自宅を出る必要があると言っていた。毎日、片道2時間の通勤、まさに通勤地獄だ。
インドネシアの生産性を大きく向上させたもの
そんなジャカルタで農業に関係する機関を回り聞き取り調査をしたのだが、奇妙なことに気がついた。それは、意外に仕事がはかどるのである。
これまでの開発途上国での調査と言えば、日本から約束を取り付けて訪問しても相手が不在であったり、担当者がいても資料が用意されていなかったりと、スムーズにことが運ぶことが少なかった。日本では半日で済む仕事が2~3日を要することも稀でない。それが、今回は1日に3カ所を訪問しても、スムーズに調査が進むのである。
その理由は、一緒に訪問した研究者が東京からだけでなく、ジャカルタに着いてからも携帯電話で連絡を取ったためだ。渋滞に巻き込まれて到着が遅れる場合には、車中から通訳に電話してもらった。訪問先が小さな事務所で場所が分からない時も、携帯電話で詳細に道順を教えてもらった。携帯電話は実に便利なのだ。