米国のアジア戦略がいまや戦後、最大の変革を迫られ、しかもこれまでの機能を大きく浸食する危機に直面するに至った――。
こうした認識が、ワシントンの安全保障政策の立案者たちの間で公然と語られるようになった。重大問題にベールを被せるようなオバマ政権の公式の対応とは対照的な警告である。その危機認識の中心には、わが日本の防衛態勢のあり方ももちろん主要課題として位置している。
米国はアジアにどのように関与してきたのか
では、米国の従来のアジア戦略とはそもそも何なのか。米国のアジアに対する安全保障政策と呼び換えてもよい。この問いへの答えは明確であり、しかもその内容は戦後の60年ほども米国内の超党派の支援を得てきた。その政策の根幹を簡単にまとめてみよう。
米国は戦後一貫して、西欧諸国と同盟を結びながらも、太平洋国家としても特徴づけ、アジアへの関与を保ってきた。
その関与の目的は第1に、当然ながらアジア、太平洋に関わる自国の領土、利益、そして自国民の生命や財産を守ることである。
第2は同盟国を守ることだった。米国は日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイの各国とそれぞれ個別の安全保障条約を結んで、同盟関係を築き、その同盟相手が第三国から軍事の脅しや実際の攻撃を受けた場合には、防衛にあたることを誓っている。台湾に対してもその防衛を支援することを米国の国内法で宣言している。
第3には、米国はアジア太平洋の公海やその空域での移動の自由、サイバー空間の保護などの公共財をそのまま守ることを誓約してきた。公海の航行の自由や飛行の自由の保証である。
そして第4に、アジア全体の力の均衡を米国にとって有利に保つことだった。軍事力のバランス保持ということである。そのバランスを決定的に崩そうという動きが起きた場合、米国は軍事力の行使へと動いた。朝鮮戦争などがその代表例だろう。
米国はアジアで危機に直面している
このような米国のアジア戦略が最近になって変化を迫られてきたことは、この連載コラムでも多様な角度から取り上げてきた。
だが今回、米国がいまやアジアで戦後でも最大の挑戦を受け、歴史的とも呼べる変革を求められるようになったことを正面から詳述する研究報告が公表された。