先の見えないワイナリー建設ではあったが、見えないなら見えないなりに、できる限りのことをしていこうと思っていた。諦めるのはその後でもいい、と。

 ワイナリー建設工事と並行して行わなくてはならないのが、酒造免許取得のほかにもあった。保健所の許可申請だ。こちらも一筋縄ではいかないらしいと、人づてで聞いていた。その真偽のほどを確かめようと行ってみることにした。

初夏、猫の足跡畑ではムクドリが営巣していた。ヌエゾン(結実)の季節(筆者撮影、以下同)

 大変なことを後回しにしているともっと大変な事態になるので、気が向かないことから順番に片付けていくことにしている。

 管轄の保健所に用件を伝えるとワイナリー建設は事例がないらしく、担当者は困惑気味だった。どのような行程でワインが出来上がるのか教えてほしいという。

 それで、別日程でワイン醸造の基礎知識のような話から始めることになった。ただ手帳に溢れ返るスケジュールと睨めっこしながらの話になる。

 時間に限りがある中でどのようにしたら最も効率よく納得してもらえるか、が課題だった。

 そんななかで日程を摺り合わせながら時間を取って説明していった。分かりやすいように建築図面や製造工程や諸々の資料を作成し、一つひとつ食品衛生上問題がないか衛生課の担当者と確認していくことを同時に行うことにした。

 問題点があれば設計変更できるところは行い、できないところは代替案を出してそのつど担当者に確認を取っていくことで効率化を図っていった。

 2011年6月中旬、シャルドネが開花を始め数日するとピノ・ノワールもそれに続いた。例年より早い5月末に梅雨入りしたとはいえ、降雨量は例年に比べ少ない気がしていた。

ワイナリー建設はさまざまな困難に見舞われていた

 ブドウは雨のなかで曇天に向かってぐんぐん新梢を伸ばしている。こちらの栽培作業はそれに反比例して後手後手になっていく。

 これも少ない人数でやっているので毎年のことと諦めている。それだけブドウの生長スピードが早く、しかもやらなくてはならない作業が集中している。

 梅雨の時期に最も神経を遣うのが病気の発生を未然に防ぐ防除のタイミングだ。とりわけベト病は雨を媒体として感染していく。

 降雨量が少ないからといって油断はできない。最適な間隔かつ少ない散布量で効果的に行えるのが理想なのだが、これが最も経験を必要とする難しい作業である。

 2011年は梅雨明けが7月8日と例年より2週間早かったのだが、その分台風の上陸が例年に比べ多い年となっていた。それはさらに工事の遅れの原因の1つになった。