1.海洋は国際法が支配している

 日本を含む東アジア諸国の海洋を巡る動きが、最近激しさを増している。この動きは、遠く離れた海洋での出来事であり、日常社会生活への影響が直接実感されるものでもなく、よほど海洋問題に関心のある人でなければ、継続的に観察することはないであろう。

 しかし、報道機関は、最近の中国の海洋進出、北朝鮮の工作船問題等に関心を持ち、または刺激され、海洋問題が取り上げられる機会が多くなってきている。

 その中でも、中国は確実に海洋権益を意識して国家戦略を構築しており、平成22(2010)年9月の尖閣諸島領海での中国漁船衝突事件に関する一連の中国政府の動きは、東アジア諸国の海洋を巡る動きの激しさを、はっきりと私たちの目の前にさらしたのではないかと思う。

 「海洋問題は国際問題である」「海洋政策は国家戦略である」といった現実を、戦後今日ほど私たちに意識させている時期は、ないのではないかと感じている。

 四面を海に囲まれた日本の海洋問題は、日本国内における事件・事故とは多少視点が異なっている。

 海上における事件・事故は単なる国内問題の司法・行政手続きによる処理だけでなく、加えて国際政治・経済問題が背景にあり、それらに影響を与えるなど国際性が極めて強く、国内世論のみならず、国際世論をも思慮した外交・広報処理が必要になってくる。

 また、海洋でのルールの大部分は国際条約や国際取極(とりきめ)をベースにしており、その国際ルールを批准国が自国の法律として国内法にしているにすぎず、まさに海洋は国際法が支配しているエリアであるということを理解しておかねばならない。