先日、韓国に住む遠距離恋愛中の彼女とインターネットでテレビ電話をしながら変わらぬ愛を確かめ合ったかと思ったら、その次の日はまた別のとびっきりカワイイ中国系アメリカ人女性とドライブ。しかも彼女と僕の間にできた長男を連れて。
英語しか話さない我が息子よ。もう少しだけ、ゆっくりはっきり発音してくれないかな。ダディ、おまえがそんなに速く話すと理解できないよ・・・。
車のハンドルを握る僕の笑顔が、微かにひきつり始める。あ、痛い。突き刺さってきた。視線が。
最新型のファミリー仕様ワンボックスカーが一瞬にして箱馬と平台と玩具のハンドルでできたはりぼてに逆戻りする。キャスティングディレクターの冷たい視線にかかれば、シンデレラの魔法だって、深夜12時を待たずして一瞬で解けてしまうのだ・・・。
お察しの通り、妻と息子とのドライブも、遠距離恋愛の彼女も、すべてオーディションでのフィクショナルなシチュエーションである。
この1~2カ月を振り返ってみるだけでも、父親、恋人、サーファー、ゴルファー、店員、TVショーの司会、サラリーマン、士官、通訳、ギャングに空手家に忍者・・・。それ以外にも数え上げたらきりがない程の役柄を演じてきた。
オーディションの内容に関して秘密厳守する旨の書類にサインさせられることも多い。大作映画やドラマのオーディションがそういった部類に入る。もちろんそういったオーディションに関してはここでは言えないので、スクリーンやTVで僕を発見する日をお楽しみに!
コマーシャルのオーディションに関して言うならば、とても数が多い。週に5回という時もあれば、1日に2回という時もある。
だからオーディション会場からオーディション会場を渡り歩く俳優の車の中は助手席、後部座席、トランクの中まで、まるで整理されていないクローゼットのようだ。
オーディションのシチュエーションに合わせるために、着替え用の服や靴を入れておく。時にはおもちゃのヌンチャクや竹刀、医者の白衣や浴衣といったものまで入っていることもある。
日本や韓国では、コマーシャルに出演するのは特別有名な俳優に限られる。コマーシャルの出演料は高額だ。はっきり言って、映画やドラマの出演料をはるかに上回る。
日本や韓国の芸能界にはこんなブラックジョークまである。
「ある種の俳優たちにとってドラマに出演することは、顔を売ってコマーシャルにキャスティングされるための手段にしかすぎないのだ」
一方、アメリカでは正反対。有名な俳優ほど、コマーシャルに出演するのを嫌う。
ただし例外は、ある。コマーシャルをショートフィルムのような1つの芸術作品として制作する場合だ。映画『ロミオ+ジュリエット』や『ムーラン・ルージュ』で有名なバズ・ラーマンが監督し、ニコール・キッドマンが出演した「シャネル No.5」のコマーシャルはとても格好良かった。