しかしながら、平時において紛争を抑止する機能を重視すれば、事前に前方駐留(Forward Presence)しておくことには意義があることだ。
ただし、その規模はこれまでと比較して格段に小規模な部隊であっても、初動の対応が可能となったことが認識されている。例えば韓国では現在、わずか2万5000人の米陸軍の前方駐留が李明博政権から米国に要請されているだけだ。朝鮮半島ではそのような戦略態勢が定着したのである。
さらに米国は、このようなトランスフォーメーションを論拠として、グアム島を本格的な軍事拠点として確立することをアジア・太平洋地域における自国の軍事戦略として位置づけている。
併せて、緊急時に本格投入する部隊をグアムに配備し、東アジア・太平洋地域における領域の防衛強化に当てることを目標として、グアム島において軍事力建設を開始している。その戦略が、ラムズフェルドの「10-30-30戦略」なのである。
その戦略を簡単に説明すれば、ある地域に紛争が発生した場合、戦域に「10日以内」に展開するとともに、敵を「30日以内」に撃破し、その後「30日以内」にその他の地域に機動展開して、次の紛争に対処するための戦闘可能な能力を確立する。そのような能力の獲得を目標とするという軍事戦略なのである。
沖縄駐留海兵隊の役割
米韓の合同軍事演習(2008年)〔AFPBB News〕
それでは、そのようなラムズフェルド軍事戦略の中で、沖縄に所在する米海兵旅団はどのような役割を担っているのか。これが2つ目の疑問となろう。
しかし、その解説に移る前に、東アジア地域におけるトランスフォーメーション後の米国の軍事態勢について、少し詳しく言及してみたい。
2003年、当時のラムズフェルド国防長官は、先に述べたようなトランスフォーメーションが軍事分野で起きていることをいち早く認識し、韓国の盧武鉉政権(当時)からの要請もあったため、「2003年までにソウル以北の米軍を移転させるとともに、2016年には全在韓地上軍を撤退させる」と言明した。
具体的には、3万7500人の在韓米陸軍部隊のうち、当初1万2500人を帰還させ、その後、2万5000人を2度に分けて撤退させて、最終的には全面撤退するという方針を示した。
しかしながら現在の李明博大統領は、米陸軍の全面撤退方針の見直しを米国に要請し、結果的には2万5000人の米陸軍が韓国に駐留を継続することで決着した。
これは、前方駐留は時代遅れではあるというものの、政治的には平時の抑止力として前方駐留することに意義があるとする米国防省の意向が働いたと考えられ、李明博政権も全く同様の認識で米陸軍の駐留の継続を受け入れたからである。

