環境エネルギー政策研究所 所長
飯田哲也
「持続可能性」(サステナビリティ)は、将来のエネルギーを考える上でもっとも重要な原則だ。持続可能性とは、1987年に国連環境と開発に関する世界委員会がまとめた「ブルントラント報告」で提起された、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」という理念が基礎になっている。
環境エネルギーの領域で再定義すると、再生可能なエネルギー、あるいは「資源を再生可能な範囲内で利用する」ということになる*1。つまり、この分野でサステナビリティを実践するには、省エネルギー以外の手段では再生可能エネルギーを導入することに等しい。
欧州を筆頭に、世界では再生可能エネルギーの普及が著しく加速している現実がある。ここ数年、風力発電は毎年20%程度市場が拡大し、太陽光発電ではそれが40%以上に及ぶ加速度的な成長を遂げつつある*2。その結果、2010年末には、風力発電・バイオマス発電・太陽光発電を合計すると、その値は世界の原子力発電の設備容量を追い抜いたことが報告されている。
世界的にも日本においても、唯一の「持続可能なエネルギー」である再生可能エネルギーは確かな可能性を有している。太陽エネルギーだけでも1年間に消費する化石燃料の1万倍もの規模の膨大な資源量が期待できる*3。
日本でも、環境省の最新の詳細調査に拠れば太陽光発電でおよそ2億kW、風力発電に至っては洋上を含めると18億kWもの賦存量が期待できると評価されている(地形や社会制約を考慮した現実的な地域に絞った上での評価)*4。日本における全発電設備(2010年度末、2.4億kW程度)を大きく上回る規模だ。
日本は、風力発電・太陽光発電の適地なのだ。風力発電・太陽光発電に限らず、地熱発電をはじめ、環境に優しい小水力発電やバイオマス発電、そして、ゆくゆくは波力発電や潮力発電なども普及を期待したいところである。
ただし日本の再生可能エネルギー賦存量から見ると、風力発電と太陽光発電が圧倒的な量を占める。加えて、これらは従来からのさまざまな権利関係(水利権、温泉権など)から比較的に自由であることから、開発の障害が相対的に小さく、開発のスピードが期待できる。
地下資源を探索する必要がある地熱発電は、もともと開発リスクが高く、それに加えて、温泉地域との軋轢や自然公園との関係があるという現実を見る必要がある。バイオマスや小水力は地産地消のエネルギー源としては重要だが、林業が十分に回っていない日本では資源供給に制約があること、小水力も絶対的な資源量に制約があることなどから、日本全体の電力供給においてはどうしても主役にはなれないというのが現実だ。
再生エネルギーに対する批判の再考
再生可能エネルギーに関する「安定性」や「電力の質」の問題は、風力発電・太陽光発電といった電源ソースの送電系統への接続における障害要因として電力会社がしばしば指摘してきた事項だ。これらの「口実」は、一般市民を惑わすような議論誘導に使われてきたところがある。
そもそも「電力の質」の確保とは、停電のリスクを抑えながら、周波数変動や電圧変動を一定の幅に管理することを意味する。その点に関して、風力発電・太陽光発電などの自然変動型電源は、けっして致命的な問題を抱えているわけではない。
*1=ハーマン・デイリー『持続可能な発展の経済学』(みすず書房、2005)など
*2=REN21(21世紀のための再生可能エネルギー政策ネットワーク)「自然エネルギー2011 年世界的状況報告書」(2011年7月)
*3=Lebel, Phillip G., Energy Economics and Technology, Baltimore and London: the Johns Hopkins University Press, 1982.
*4=環境省「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査結果」