前回のアインシュタインのケースでは、個人の「クレージー」な発想という意味でバカになる大切さをお話ししました。
今回は、チームワークの中で「バカ」ならぬ「まぬけ」になる大切さ、ということを考えてみたいと思います。
音楽家はリハーサルが勝負
いきなりですが、自分の領分から例を出すのをお許し下さい。音楽の演奏には「本番」と「練習」があります。この「練習」が実は音楽作りの99%を決めています。
まあ、ちょっと考えれば当たり前のことですよね。お客さんを呼んで、人前で演奏するのは1回でも2回でも、限られた機会です。それに対して毎日の基礎練習に始まって個人練習、合奏練習、音楽人は生涯練習とともに生きていくわけですが、その大半は本番ではない。
私たち指揮者の仕事もまた同様で、本番が1日、2時間あるとすれば、その陰に2日とか3日、5時間とか10時間とか18時間とか、より長い準備、リハーサルが必ずあります。
それがなければぶっつけ本番ですが、ぶっつけだけでマトモな音楽ができる世界は、あまりたくさんありません。
演奏家も指揮者も、その本業、本領が一番問われるのはリハーサルです。と言うより、そのリハーサルで鍛えられ、磨き上げられた本番は、そんじょそこらの「ちょっと音出してみました」という出来と、明らかに違うものになる。
そういう積み重ねがミュージックライフというものです。
オペラ指揮者の勘どころ
この傾向はオペラなど大規模な舞台で、もっと顕著です。
オペラは「過激」もとい「歌劇」と訳されるように、歌があり音楽があると同時に、演技があります。舞台装置があり、衣装があり照明があり、様々な演出の工夫もあります。
こうしたことすべてに「準備」があり「リハーサル」があります。本番は、あまり長くなるとお客さんが茹で上がってしまいますから、まあ2時間とか3時間とか、かかってもせいぜい1日5~6時間がせいぜいでしょう。
ドイツの作曲家ヴァーグナーの「ニーベルングの指環」という作品は演奏するだけで4夜18時間ほどを要します。またやはりドイツの作曲家シュトックハウゼンの「光」という作品は上演に7日を要しますが、いまだ通して演奏されたことがありません。