最悪期は脱した──、トヨタ自動車の2010年3月期連結決算を伝える報道には、そうしたニュアンスが感じられる。決算記者会見で豊田章男社長は「嵐の中にも晴れ間は見え始めている」と表現した。

 しかし、筆者にはとても「晴れ間が見え始めた」とは思えない。

別にクルマが売れて黒字になったわけではない

 連結決算での当期純利益増減要因を見ると、原価改善が5200億円(このうち4100億円がトヨタ本体によるもの)、固定費削減が4700億円、金融事業が2700億円、それぞれプラス要因に挙げられている。しめて1兆2600億円。これが効いて営業利益は6085億円の黒字になった。

 営業利益は「本業での儲けを示す数字」だが、別にクルマが売れて黒字になったわけではない。世界販売台数は前年度よりも33万台の減少だった。

 営業地別の営業損益を見ると、ホームマーケットである日本が輸出事業も含めて2252億円の赤字。北米は541億円の黒字だったが、ここにはリコール費用は含まれていない。販売が冴えなかった欧州は330億円の赤字だった。

 ちなみにEUでの乗用車販売台数はVW(フォルクスワーゲン)グループが前年比0.7%増、PSA(プジョー/シトロエン)は増減なし、ルノー・グループは3.9%増、フィアット・グループは6.3%増だった。それに対してトヨタは4.7%減である。

 アジアは2036億円の黒字であり、連結業績に最も貢献した地域だ。だが、中国では、日本から輸出している「レクサス」ブランドが前年比減だった。

 現地生産車の販売台数は一汽トヨタが14.0%増、広州トヨタは21.9%増だった。だが、他メーカーを見ると、一汽VW(フォルクスワーゲン)は34.1%増、上海VWは48.6%増、上海GMは59.3%増、北京ヒュンダイは93.6%増と、ライバル各社は伸び率でも台数でもトヨタの合弁2社を上回っている。

研究開発費と設備投資を大幅に削減

 連結でも単独でも、出血防止に最も大きく貢献したのは原価低減だ。だが、これは言うまでもなく、半分以上がサプライヤー側の努力によるものだ。

 トヨタ本体が何をしたかと言えば、支出を抑えただけである。研究開発費は前期比1787億円減の7253億円、設備投資は同7235億円減の5790億円だった。

 生産を絞り、在庫水準を引き下げ、新車および新技術の開発の一部を凍結、または延期し、設備の新規購入をやめ、人件費も圧縮し・・・、ということを積み重ねた結果の営業利益に過ぎない。