2月20日の新聞報道によると、国営イラン石油公社は19日、ロスタミ・カセミ石油相のEUへの禁輸指示に基づき、英国とフランス石油会社への原油販売を停止した。イランの核開発疑惑に対する欧米諸国を中心とした制裁措置に対するイラクの対応が次第にエスカレーションしつつある。

 本年初頭にイランのモハンマド・レザーラ・ラヒーミー第1副大統領は、「イラン・イスラム共和国に対して石油の禁輸が科せられた場合には、一滴の石油もホルムズ海峡を渡ることができなくなるだろう」と発言。

 これに対し、米軍事当局はホルムズ海峡をコントロールするイランの能力に対する疑問を呈したが、イラン・イスラム共和国海軍ハビーボッラー・サイヤーリー司令官が直ちに「ホルムズ海峡の封鎖はイランにとって一杯の水を飲むのと同じくらい容易だ」と反論した。

 我が国においては、2月10日の衆議院予算委員会において野田佳彦総理は、「日本のエネルギー源をそこに頼っていることを考えれば、ホルムズ海峡で何か起きた時を想定し、その前とその後にできることを含め、議論は当然やっておかなければならない」と答弁し、「特別措置法や海外派遣の一般法という段階ではない」とも述べた。

 この答弁を受けた形で、自衛隊がホルムズ海峡封鎖の対処計画の策定に入り、原油輸送のタンカーを護衛するため海上警備行動に基づく護衛艦派遣と、軍事衝突後の戦後処理で機雷を除去する掃海艇派遣の2案が柱であると翌11日の産経新聞が報道した。

 我が国は法治国家である。従って、自衛隊が行動あるいは活動を行う場合は、それを担保する法的根拠が必要である。野田総理が答弁したように、現行の法令の下で海上自衛隊はどのようにホルムズ海峡封鎖に対応できるのであろうか。

 海上自衛隊が「できること」と「できないこと」を明確にし、戦闘行動以外の活動(MOOTW:Military Operation Other Than War)に防衛力を活用することが多くなった情勢を考慮し、将来の取るべき方向を考察してみたい。

ホルムズ海峡とは

ホルムズ海峡(Strait of Hormuz)

 ペルシャ湾とインド洋側のオマーン湾を結ぶ海峡であり、北にイラン・イスラム共和国、南にオマーンの飛び地には挟まれている海峡である。

 海峡の北側には、イランのケシム島をはじめ複数の島々があり、海峡幅は40キロメートル、最大水深190メートルである。

 イランはこの海峡に国連海洋法条約に基づく領海12海里を主張している。海上における衝突を防止するためオマーン湾からペルシャ湾に進入する航路帯及びペルシャ湾からオマーン湾に抜ける航路帯、いずれも幅3キロが設けられている。

 ペルシャ湾進入の航路帯は、イランの領海内を通過することとなり、イランは「善意により」領海内通過を認めていると主張している。

 イランの主張は、イランは国連海洋法条約に署名はしているが批准はしていないため、国連海洋法条約が規定する国際海峡の通過通行制度を受け入れる義務を負っていないことを根拠にしている。

 世界の原油の約2割(イラク:3.2%、イラン:9.6%、サウジアラビア:28.8%、カタール:11.8%、UAE:20.4%)がタンカーによりホルムズ海峡を通峡している。

 また、日本向けの原油の約8割がここを通峡しており、ホルムズ海峡封鎖の事態になれば、日本にとって第3次石油ショックが到来することとなる。いやそれ以上の事態が生起する恐れがある。