米国と北朝鮮との奇妙な合意が発表された。2月29日のことである。北朝鮮の核兵器開発を停止させることを巡る合意だった。

 「奇妙」とあえて書いたのは、その欠陥もあらわな内容、そしてこの発表の予想外のタイミングなどのためである。

 この合意では、北朝鮮が寧辺でのウランの濃縮活動を一時停止するという。さらには核兵器に関する活動や長距離ミサイル発射実験をも一時停止する代わりに、米国から24万トンの栄養補助食品の提供を得るというのだ。

 合意には、ウラン濃縮活動の停止を監視するための国際原子力機関(IAEA)要員の復帰を北朝鮮が受け入れる内容も盛り込まれた。

 こうした骨子を表面で見る限り、北朝鮮がかなりの譲歩を示したように見える。米国側の大きな譲歩は見当たらない。

 米国側は今回の北朝鮮の合意を驚きをもって受け止めたと言える。金正日総書記の死からまだ2カ月ほど、若くて未経験の金正恩氏の後継体制がまだ基盤固めができていない時点で、このような重要な対外政策の修正を公表したことは、米国をはじめとする諸外国の北朝鮮ウォッチャーを驚かせたわけだ。なぜこれほど早急に、という点も不可解である。

秘密施設で続けられているウラン濃縮

 この米朝合意について、米国議会調査局で長年、朝鮮半島情勢を専門に研究してきたラリー・ニクシュ氏は、この合意を歓迎しながらも、北側が国際査察を認めるという寧辺地区以外の秘密施設でのウラン濃縮核弾頭開発の危険性などを指摘した。

 現在は大手シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)の研究員を務めるニクシュ氏は、まず今回の米朝合意を「北朝鮮の核兵器やミサイルの開発を一部的に制限する点で歓迎できる」と評価する。その一方、米国が最も懸念するウラン濃縮による核弾頭開発について、「IAEAによる査察の受け入れが周知の寧辺地区だけに限られており、北朝鮮の他の地域に明らかに存在する複数の秘密施設でのウラン濃縮の動きは自由となる危険が残る」と指摘したのだった。