毎年2月から3月にかけてカーニバルの話題がメディアを賑わしてくると、寒い冬もそろそろ終わりだな、と感じるようになる。

 ニースの「花合戦」、ベネチアの「仮面カーニバル」など観光の目玉とも言えるような存在が興味を惹くが、カーニバルとはもともとキリスト教圏各地で行われている年中行事。

 そんな1つ、ロワール川沿いの都市ナントでカーニバルの女王となった女性をカトリーヌ・ドヌーブが演じる佳品『恋路』(1991)を見れば、住民に密着したものであることがよく分かる。

「肉よ、さらば」を意味するカーニバル

リオのカーニバルの様子

 元来カーニバルとは「肉よ、さらば」を意味する言葉で、節制の日々となるキリスト教の「四旬節」に先立ち思い切り肉を食べてしまおう、という宗教的意味合いのあるもの。

 四旬節とは、イエスが公生活を前に荒野で40日間断食したことを偲び、同じだけ精進潔斎を守ろうという復活祭の前日までの40日間のことである。

 ただし「主の日」である日曜日はその日数に含まれないから、実際には46日前、7週遡った水曜日から始まることになり、それを「灰の水曜日」と呼んでいる。

 カーニバルはカトリック信仰の強い地域で盛んだが、プロテスタントや正教会の地域で行われているところもある。

 とはいえ、そんな話を聞いても我々非キリスト教圏で暮らす者にとっては、華やかなパレードのあるお祭り、というのがそのイメージ。ブラジル、リオデジャネイロのカーニバルがその典型である。

 今や知らない人などいないこのカーニバルの熱狂を世界中に知らしめたのが、1959年のカンヌ映画祭グランプリ受賞作『黒いオルフェ』だろう。

 ギリシャ神話をベースにした文学センス溢れる味わい深い作品だが、その最大の魅力は音楽。アントニオ・カルロス・ジョビン、そしてルイス・ボンファの醸し出すブラジル音楽とジャズとの融合というボサノヴァムーブメント初期の傑作で、日本人にも人気が高い。