財務危機で先の見えない暗闇にどっぷり浸かり込んだままのギリシャから、また1つ気分を沈みこませるニュースが入ってきた。長年ギリシャ映画界を引っ張り続けてきた唯一無二の存在テオ・アンゲロプロス監督が撮影中の交通事故で他界したというのである。

ギリシャの現代を語りかけてきたアンゲロプロス

アンゲロプロスの『アレクサンダー大王』

 日本人のみならず、ギリシャと聞けば古代史ばかりに目がいきがちだが、そんな世界の人々にギリシャの「今」、そして複雑に入り組んだ現代史を語りかけてきたアンゲロプロスの功績は計り知れない。

 その名を初めて世界に知らしめた『旅芸人の記録』(1975)も、軍事独裁、第2次世界大戦の枢軸国による占領、内戦と続いたギリシャにおける暗黒の戦中期を、旅芸人一座の日常の中で描いたものだ。

 映画は、1952年、アレクサンドロス・パパゴス元将軍への投票を呼びかけるギリシャの田舎町に始まる。ギリシャにとってようやく長い「戦時」が終わりを告げた時である。

 そしてそこから十数年前の同じ地へと舞台を移していくのだが、我々も映画同様、視線の先を十数年前のギリシャに変えてみることにしよう。

 イオアニス・メタクサス将軍によるファシズムを模倣した軍事独裁政権による圧政がすでに始まっている。しかし、第2次世界大戦が勃発すると、枢軸国に国土を占領されてしまう。

1944年亡命政府の首相になったゲオルギウス・パパンドレウ

アンゲロプロスの『こうのとり、たちずさんで』

 各地でレジスタンス運動が始まるが、イデオロギーによる分裂から一枚岩となれない。亡命政府が作られても、レジスタンスの主導権を共産勢力が握っているから他国との連携もうまく取れない。

 1944年10月、亡命政府が英国軍に守られようやく帰国を果たした時も、武装解除を拒否する共産主義レジスタンス組織ELASが英国軍と戦闘となってしまう始末だ。

 そんな亡命政府の首相の座にはゲオルギウス・パパンドレウが就いている。ドタバタ劇の末、昨年11月辞任したあのゲオルギウス・アンドレアス・パパンドレウ首相の祖父である。

 同じ分裂社会でもフランスのシャルル・ド・ゴールのようなカリスマ性を持たないパパンドレウでは、諸勢力の対峙を処すことなど所詮無理な相談ということだ。