「防衛大臣がころころ代わってもいいほど、自衛隊はしっかりしているんですね」という皮肉をどこかで聞いた。しかし、教育・訓練に精励する自衛隊がしっかりしていても、バランス・オブ・パワーの国際社会で政治が無能では、肝心な時に機能しない恐れがある。

短命すぎる防衛大臣

野田改造内閣が発足、副総理に岡田氏

田中直紀・防衛大臣〔AFPBB News

 防衛庁発足(1954年)以来の長官は53年間に65人が任命され平均10カ月であった。国務大臣とはいえ(防衛庁)長官だから軽視されるので、(防衛省)大臣ともなれば重用されるに違いないと見る向きも多かった。

 しかるに防衛省(2007年)になって以降の大臣はたった5年間で既に10人で、さらに短命(平均6カ月余)である。

 大臣が省務・隊務を掌握する時間がなければ、問題の所在さえ分からず、解決のしようもない。普天間問題の膠着は首相の無理解にも原因があるが、安全保障上の立場からしっかり意見できる防衛大臣がいないことにより大きく起因している。

 新大臣が着任すると、初度視察と称して陸海空自衛隊の部隊回りが行われる。当然のことながら、視察を受ける部隊は予定の教育訓練を変更して対処することになる。

 現状のままを見たいと言われても、見せる側は節度ある状況を見せたいと思うし、整理整頓をはじめ対応準備に否応なく時間を割くことになる。

 自衛隊の本当の問題は部隊側にあるのではなく、短命大臣しか任命できない政治にある。部隊は任務遂行のために各種制約の中で最大限の努力をしているが、大臣が代わるごとに方針が変わるなどして前進するどころか、場合によっては後退さえしかねない。

 しかも、防衛大臣の政治力は押しなべて弱い。自衛隊が国家の存立に関わる名誉ある職業であり、尊敬に値するものであるという認知(具体的な施策)を隊員は期待している。

 しかるに、歴代大臣のほとんどはそうした根本に関わる施策を行うこともなく、国民の反応ばかりにあたふたする弊がある。

 こうして、自衛隊は政治がらみの、どちらかというと自衛隊に対してあまり肯定的でない国民世論に影響され、誇りも名誉も与えられないままである。退職自衛官が「元自衛隊員」と口外したがらない習性はこうしたところに淵源がある。

 3.11の災害発生時には公務員の一律給与削減が課題になっていた。

 菅直人首相(当時)は自衛隊派遣で朝令暮改したことに自責の念を感じたのか、多分に一時的な感情からであったのだろうが、隊員の給与は(議論されているような一律削減ではなく)防衛大臣と総務大臣が別途話し合うようにと指示した。

 その後大臣はともに代わり、すっかり忘れ去られているに違いない。