日本人の食卓に欠かせない食材「納豆」の昔と今を前後篇で追っている。前篇では、糸引き納豆の謎めいた起源や、製法・販売法における近現代の技術革新の歴史を紹介した。

 いつの時代も日本人は納豆を愛してやまない。その理由には、あの独特の風味と食感がまずあるだろう。それとともに、栄養源としての価値の高さも忘れてはならない。仏教伝来以降、長らく肉食を遠ざけてきた日本人にとって、大豆を発酵させた納豆は貴重なタンパク源であり続けてきた。

 エネルギー源というだけではない。納豆による健康効果に関する知見の数々も、現代の研究によって生まれてきた。栄養源としての納豆に対して“科学的な裏付け”が次々となされているのだ。それを一言で言えば「栄養バランスに優れている」ということになるだろう。

 後篇では、前篇に引き続き、全国納豆協同組合連合会専務理事の松永進氏に話を聞きつつ、納豆の健康効果について目を向けてみたい。日本人の健康長寿は納豆がつくった──。そんな表現が似合うほどの知見が数多くある。

 日本に現存する最も古い医書は、平安時代の宮廷医だった丹波康頼により984年に作られた『医心方』だ。この中には、大豆の様々な体への効能が綴られている。曰く、脳卒中や言語障害を和らげ、産後の成長をよくする。1年食べ続けると、体が軽くなり、精力が増す。長いこと食べると胃腸の機能を高める・・・。

 大豆そのものが体にさまざまな効き目をもたらすことは、古来知られていたのだろう。大豆の効果が裏付けされるように、現代科学でも大豆は栄養価 が高い作物であることが分かっている。大豆は、脂質、炭水化物、カルシウム、鉄、各種ビタミンといった栄養素を豊富に含む。さらに「畑の肉」とも呼ばれる。肉に匹敵する程のたんぱく質を含んでいるからだ。

 「大豆を発酵させて納豆にすることで、消化吸収の効果が向上します。さらに、大豆そのものよりも納豆にして食べた方が、いろいろな点で栄養に良いことが分かってきています」