米国大統領選挙の予備選が白熱してきた。といっても共和党側の戦いの激化である。民主党はオバマ大統領の再出馬が決まっているからだ。

 振り返れば、私は新聞記者として米国の大統領選挙の取材に1976年からあたってきた。この時は共和党の現職、ジェラルド・フォード大統領と民主党の新進、ジミー・カーター前ジョージア州知事との対決だった。

 以来、80年のカーター対レーガン、88年の先代ブッシュ対デュカキス、92年の先代ブッシュ対クリントン、96年のクリントン対ドール、2004年のG・W・ブッシュ対ケリー、そして2008年のオバマ対マケインという歴代の選挙戦をたっぷりと体験してきた。

 この間、日本に帰任したり、中国に駐在したりするなど米国を離れていた期間もある。だが、直接、取材や報道にあたった米国大統領選挙は通算7回ともなる。日本人ジャーナリストとしては稀な体験だと言えよう。

 こうした長い体験から得た教訓の1つは、選挙はまさに水もの、目の前の光景からはるか先の開票結果を予測するのは危険だということだった。

 同時に「歴史上の類似」という教訓も間違いなく存在するように感じる。今、目の前で起きている現象に似た状況が以前にもあり、その当時の事態の展開が現在にも意味を持ち得る、ということである。

 その意味で、今回の2012年の選挙から想起されるのは、92年の選挙と80年の選挙である。

共和党の候補乱立は「7人の小人」?

 92年、投票の1年ほど前には野党の民主党側で候補が乱立していた。今の共和党と酷似した状況である。

 当時、現職だった共和党のブッシュ大統領(先代)は、投票の1年近く前までなんと90%以上という史上最高の支持率を記録していた。ソ連の崩壊に見事に対処し、湾岸戦争ではイラクのクウェート軍事占領を一気に粉砕した。ブッシュ大統領は無敵の騎士のように国際的にも国内的にも人気を高めたのだった。

 その結果、再選を目指すブッシュ氏に対し、野党の民主党側では当初、公式に名乗りをあげる候補がなかなか出ず、「白雪姫と7人の小人」という表現が生まれた。同名のグリム童話のように、魅力あふれる白雪姫のまわりを7人の小型の人物たちが右往左往するだけ、という意味だった。ブッシュ氏の強さはそれほど圧倒的と見なされたのである。