温家宝首相は2009年の全国人民代表大会(全人代)の記者会見で「今年は大変難しい1年になるだろう」と述べた。確かに2008年のリーマン・ショックを契機に世界経済は金融危機に見舞われ、中国も例外ではなかった。
また、温首相は2010年の全人代の記者会見では「今年は大変複雑な1年になるだろう」と述べた。温首相が言う「難しい1年」と「複雑な1年」は、どのように違うのだろうか。
少なくとも、マクロ経済的には2009年に比べると、今年の経済成長は回復が続いている。リーマン・ショック以降減速する中国経済は、2009年第1四半期をボトム(6.2%の成長)に、V字型回復を続けている。中国国家統計局は、第1四半期の経済成長率(実質GDP伸び率)が11.9%だったと発表した。当初、心配されていたインフレーションも消費者物価指数(CPI)が2月の2.7%をピークに、3月に2.4%に若干下がった。
景気回復の時こそ制度改革の好機
目下のマクロ経済を概観すれば、政策を変更して早急に対処しなければならないという深刻な問題はないように思われる。
だが、いくつかの制度改革を急ぐ必要がある。
第1に税制改革である。
現状では、所得の累進課税は賃金所得に限定され、富裕層の非賃金所得が増えていることに十分に対処できていない。そのため所得格差がますます拡大している。所得に対する累進課税を、賃金所得から全所得に広げる必要がある。また、不動産税やキャピタルゲイン課税も導入すべきである。さらに、財産相続の場合、相続税を取り入れる必要がある。以上の3点は現行の税制の欠陥と言える。
第2に財政改革である。
政府がコントロールする財源の規模は年々拡大している。問題は政府の予算執行の透明性が高まっていないことと、公共工事の落札が国有企業に集中していることである。結果的に予算執行の効率が悪く、財源配分は不公平なものになっている。
第3に金融制度改革である。
4大国有銀行は市場を寡占しており、民営中小企業の資金調達は依然として難しい状況にある。現行の制度では、国有銀行は株式こそ公開しているが、それに対するコーポレートガバナンスが確立しておらず、金融仲介の効率性も高まらない。
ここで重要なのは市場経済に適する金融制度を構築することであり、その第一歩は国有銀行の完全民営化である。