北朝鮮の独裁者、金正日労働党総書記の死去が発表された。2008年夏に軽い脳卒中に襲われたとされたものの、金書記はその後、公的な場に頻繁に登場し、熱っぽい言動をみせて回復を印象づけていた。だから今回の死去の報は唐突とも受け取られた。

 米国はこの北朝鮮のカルト的な最高指導者の死にどう対応するのだろう。

 首都ワシントンでは12月18日夜に「金正日死亡」のニュースが流れたが、翌日の主要新聞各紙はそれほどの重大ニュース扱いをするところは少なかった。テレビはかなり大きな扱いで詳しく報じたが、それでもなお天地が揺らぐような衝撃のニュースという位置づけからはほど遠かった。

 だが米国の政府や議会、そして研究機関の関係者たちの間では、今回の出来事は朝鮮半島の情勢はもちろん東アジア全体の地政構図を根幹から変えかねない重大異変として受け止められたと言える。

 その結果、今後の朝鮮情勢の読みや米国の対応のあり方が各所で熱心に論じられた。朝鮮半島の現実を知る人であればあるほど、深刻に受け取る出来事が金正日書記の死だと言えるようだ。

 ヒラリー・クリントン国務長官はたまたま12月19日にワシントンを訪問中の日本の玄葉光一郎外務大臣との共同記者会見で金書記死亡に触れ、「朝鮮半島の安定を望む」ことと、日本や韓国という米国のアジアの同盟諸国と連帯して「情勢の監視を強める」ことを強調した。

 同じ日、バラク・オバマ大統領は野田佳彦首相との電話会談で同様に「朝鮮半島の安定維持」を政策目標として掲げた。

 米国政府首脳がこれだけ「安定」を力説するのも、北朝鮮政権がそもそも不安定な行動を続けており、危険な挑発に再び出る可能性が高いからである。その素地からすれば、今回の唐突な政権移譲では、まずは暴発的な危機が起きないことに腐心するということだろう。

国政の経験も実績もほとんどない正恩氏

 さて、米国側ではこの北朝鮮にとっては歴史的な変革をどのように見て、特にどんな点に懸念を向けているのだろうか。

 まず第1点は後継の28歳の金正恩氏の下で、これまでの「金王朝」とも言える政権が従来の権力を保っていけるのかどうか、である。

 この疑問には当然、金正恩氏を倒して、他の指導者が頂点に躍り出てくる可能性の有無論も含まれている。