米財務省が4月15日に発表した米2月の国際資本統計(対米証券投資)で、中国が保有している米国債の残高は、2月末時点で8775億ドル(前月比▲115億ドル)となった。前月比マイナスは、これで4カ月連続のことである。中国が世界最大の米国債保有国であることには変わりがないものの、第2位である日本(7685億ドル)との差は徐々に縮小してきている。こうした中国の動きを、どうみるべきだろうか。

 上記のような疑問に関連して、筆者は2月18日に作成した「中国による米国債保有残高急減」の中で、中国当局が米国債を購入するための原資になっている同国の外貨準備高の月ごとの増減との関係を考察した(その後、2月26日に国別の米国債保有残高についての過去データ改定が行われたが、前月比増減は動いていない)。

 その内容をここであらためて要約して説明すると、2008年5月頃までは外貨準備高の前月比増減とほぼ連動する形で、中国の米国債保有残高は増減していた。しかし2008年後半になると、両者の安定的な関係が崩れ、外貨準備高の月ごとの大きな振れにかかわらず、中国は米国債の積極的な購入を継続した。2008年9月の「リーマン・ショック」発生による「質への逃避」「ドル回帰」が背景だろう。その後、2009年に入ってからは、金融市場全般の安定化とともに、外貨準備高の増減と米国債保有残高の増減との間で、安定的な関係が徐々に復活してきたように見える。

 中国の外貨準備高は、同国の国家外貨管理局(SAFE)のホームページに、月次のデータが事前の予告なく掲載される。最近、今年1~3月のデータが公表された。

2010年1月末 2兆4152億2100万ドル(前月比+160億6900万ドル)
2010年2月末 2兆4245億9100万ドル(同+93億7000万ドル)
2010年3月末 2兆4470億8400万ドル(同+224億9300万ドル)

 ここで、2007年1月から2010年2月までの、外貨準備高(前月比増減)と米国債保有高(前月比増減)の差について平均値を計算すると、約231億ドルになる(すでに述べたように「リーマン・ショック」前後には安定的な投資姿勢を取らなかった時期があるが、平均値を取ることでならされると見なした)。単純に考えれば、外貨準備高が前月から231億ドルないしそれ以上の規模で増加しなかった月には、米国債保有残高は前月の水準から減りやすい、ということである。

 昨年11月分については、外貨準備高が前月から605億ドルほど増えたにもかかわらず、米国債保有残高は93億ドル減っており、上記の関係は成り立たなかった。しかしその後、両者はおおむね連動して動いている。2月の対米証券投資で中国の米国債保有額が減少したことに、違和感はない。中国の米国債保有残高が4カ月連続で減少したことに、米中関係悪化の影響など、中国当局による何らかの政策的な意図の存在を想像すべきではないということである。

 3月9日には、SAFEの易綱局長が「(米国債の保有は)市場での投資行為であり、政治問題化したくない。われわれは責任ある投資家であり、投資により、双方に有利な状況を確実に実現できる」と発言したと報じられていた(3月9日ロイター)。

 中国の外貨準備高は、上記のように、3月末時点で前月から225億ドルほど増えている。次回3月の対米証券投資では、中国の米国債保有残高の減少に歯止めがかかるだろうと、筆者は予想している。