日銀は4月12日、金融政策決定会合(3月16、17日開催分)の議事要旨を公表した。日銀が「やや長めの金利の低下を促す措置の拡充」として、新型オペ10兆円上積みを決定した会合である。議事要旨によって明らかになった、議長案(追加緩和)への須田美矢子、野田忠男両審議委員の反対理由は、次の通りである。
【須田審議委員】
「(1)足もとの各種経済指標は概ね想定どおりに推移しており、追加の緩和措置を講じる明確な理由が見当たらないこと、(2)日本銀行の金融政策は、あくまで金利水準を目安にしているにもかかわらず、特定のオペの資金供給量で金融緩和の度合いを測るといった誤解が、市場などに拡がる可能性があること、(3)市場が織り込めば、それに従わざるを得ないとの見方が強まるリスクがあること等から、長い目でみた場合には、実施することのコミュニケーション上のデメリットが大きいとして反対した」
【野田審議委員】
「必要と判断される場合には、迅速・果敢に行動する用意はあるが、(1)経済見通しが若干上振れ、物価見通しは中間評価での想定に概ね沿って推移し、金融市場の急変等の事情もないこの時点で追加緩和を行うことは、これまでの金融政策の枠組みと整合的ではなく、市場とのコミュニケーションの持続性の観点から不適当であること、(2)追加緩和策による金利低下の効果が限定的であり、アナウンスメント効果も期待しにくい一方で、観測報道等に金融政策が振り回されたとの誤解を与え、金融政策の信認を低下させるという副作用が懸念されること等から、反対した」
反対理由を整理すると、景気・物価の推移が概ね想定通りである中での追加緩和は理由が不明確(須田(1)・野田(1))、市場の事前織り込みに従うことによるデメリット(須田(3)・野田(2))、金利ではなく量で緩和度合いを測る誤解が拡がる可能性(須田(2))、効果が限定的(野田(2))となる。いずれの委員も、今後さらに追加緩和が行われていく可能性自体を否定しているわけではないことに留意されたい。
3月会合で追加緩和を是とした委員たちの主張は、議事要旨によると、「景気が持ち直し、物価の下落幅が縮小しているこの段階で追加的な緩和措置を実施することは効果的であり、固定金利オペを大幅に増額することにより、やや長めの金利の低下を促す措置を拡充すれば、経済・物価の改善の動きを確かなものとすることに資するのではないか」というものであった。この「経済・物価の改善の動きを確かなものとすることに資する」というロジックは、言うまでもなく、日銀が今後さらなる追加緩和に動く場合にも応用が利くものである。