中東カタールのドーハで3月13~25日に開かれたワシントン条約締約国会議で、大西洋・地中海産クロマグロの国際取引禁止案は否決された。日本人の大好物であるクロマグロの約半分は同海域からやってくる。直前まで敗色濃厚と伝えられていただけに、逆転勝利に関係者は胸を撫で下ろし、消費者は無邪気に手を叩いた。
それでも、今後、乱獲で減少しているクロマグロの漁獲規制が強まるのは確実。「回転ずしからトロが消えずに済んだ」と喜ぶのは気が早すぎる。
それ以上にマグロ問題の経緯を振り返って気になるのは、日本の水産行政や外交の一断面──もっとハッキリ言えば「芯のなさ」だ。
主導権争いで致命的弱さ
締約国会議のクライマックスは3月18日、クロマグロ問題を扱う第1委員会の討議初日だった。禁止に反対するリビアが、緊急採決を強硬に提案。日本や中国、韓国のほか途上国が禁止案に反対して同案を葬り去った。
「禁止賛成」でまとまっていたはずの欧州連合(EU)の足並みの乱れや、同じく賛意を表明していた米国の根回しが行き渡る前の潮目を読み、一気に勝負をかけた「禁止反対派」の鮮やかな勝利だった。
日本で報告を受けた赤松広隆農林水産相は、都内の議員宿舎で深夜の記者会見に及び「きちんと説明すれば勝てると思っていた」と高らかに宣言。開幕前からの精力的な説得工作が奏功した「日本の水産行政・外交の輝かしい一日」をアピールした。
しかし、結果はともかくそこに至る道程は、日本にとって手放しで賞賛すべきものだったのだろうか。数々の多国間交渉で主導権を握られ、守勢に立って苦戦するという「轍」を、またも繰り返し踏んでしまったのが実情だ。
議論の主導権握れない日本
マグロ消費大国・日本にとって、野生生物の保護を目指すワシントン条約の規制対象となり、クロマグロが取引できなくなるのは「最悪のシナリオ」。一貫して「マグロに絶滅の恐れはない。シーラカンスやジュゴンと同じ扱いをするのは、おかしい」(赤松農水相)と訴え、条約締約国会議で白黒をつける事態を避けることに全力を挙げてきた。
同会議に先立つ2009年11月、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の年次総会がブラジル・レシフェで行われた。ICCATは、世界の海域ごとにマグロの資源管理を受け持つ国際機関の1つで、大西洋・地中海域を所管する。総会では、2010年のクロマグロの漁獲量を2009年比4割減とすることで合意、さらに、生息数の大幅な減少が確認されれば、翌年は全面禁漁するという厳しい条件が付いた。