秘境探検。冒険旅行。心躍らされる響きである。そんな心理に狙いをつけた「僻地ツアー」は花盛りで、「地の果てまでお連れします」なんて言っている会社が乱立している。

探検心がくすぐられるアフリカへの旅

エジプトの遺跡と観光用の気球

 しかし、秘境とは何だろう? 探検とは? と考えると、そもそもツアーで行けるような場所は秘境でも探検するところでもないのは明らかである。現代人にとって探検という言葉には、大した重みはない。

 テレビやネットでこともなくバーチャル体験でき、グーグルアースには何千キロも離れた地の街角写真まであるのだから、秘境と言える地域は本当に少ない。秘境探検に行くと言っても、実際には自分が知らない所に行くという意味程度にすぎないのが現実だろう。

 そんな中でも、心理的に秘境探検といった感覚が残るのは、いまだ日本人にとって未知の世界だらけのアフリカ旅行かもしれない。とは言っても、それはブラックアフリカであって、エジプトともなるとアフリカ大陸にあるとはいえ、秘境とは感じないだろう。

 ピラミッド観光やナイルクルーズなどが実によくオーガナイズされている西欧並みの観光地に思えるからだ。

 確かにエジプトはアフリカ大陸にある。しかし、ローマ帝国の時代から北アフリカは地中海世界というヨーロッパの重要な一要素でもあった。

実際のエジプト観光は芋洗い状態

 そして、そこに流れ込むナイル河が「エジプトはナイルの賜物」というヘロドトスの言葉を挙げるまでもなく強大なエジプト古代文明の礎であることは、ヨーロッパ人の間でも十分認識されていた。古代より観光旅行に訪れる者もいて、カエサルもクレオパトラとナイルクルーズに出たという。

 1922年、ハワード・カーターがあの黄金のマスクで有名なツタンカーメンの墓を発掘すると、英国ではエジプトブームが到来、金満有閑層が大挙訪れたというが、そんな人々のナイルクルーズで起きたアガサ・クリスティのいつもながらの血生臭い世界が『ナイル殺人事件』(1980)である。

 この作品、人気小説の映画化だけに結末を知っている人も多いと思うが、そんな向きでも画面いっぱいに広がるギザのピラミッドやアブシンベル神殿といったエジプト観光の見所を十分バーチャル体験できる点で買いだ。

 実際、その地を訪れてみたところで、規模の大きさには圧倒されるものの、どこも混み合う中をせかせかと汗だくで観光することになり、悠久の時の流れや歴史の重みをかみしめることはなかなか難しい。