そして、税収の成長どころか大幅な落ち込みにより、日本の財政は戦後最悪の状態となったことは既に述べた。こうしてみれば、企業が儲かれば、国民は豊かになり、税収が増える、という1980年代までの日本経済の常識や竹中改革のシナリオとは、現実の日本経済は全く逆の動きをしたことが分かる。
国民と政府から企業セクターへ巨大な富の移動が発生
なぜだろうか。答えは単純である。小泉政権下で上昇した企業収益の中身を見れば分かる。
竹中改革プランの46兆円もの国民負担によって、金融機関と企業は、不良債権問題の破綻から救済された。超低金利によって、資金調達コストも低下した。この段階で、国民と政府から企業セクターへの巨大な富の移動が起きたのである。
さらに、決定的だったのは、小泉政権でのグローバリゼーションへの対応と規制緩和である。
21世紀に入ると、欧米やアジアの企業と同様に、日本の大企業の大半は、生産拠点をコストの安い中国を中心とする海外に移した。さらには、販売の中心も、新興国の成長に伴ってアジアにシフトした。
それに伴い、日本企業の海外でのM&Aは21世紀に入って急増した。労働賃金が日本の10分の1以下の中国などに生産を移転することで日本企業の収益は劇的な改善を見せた。しかし、日本企業が生む雇用も税収も、日本国内ではなく海外に流出するようになった。その一方で、コスト競争が世界的に起き、工業製品の価格破壊現象が起きた。
こうなると、大企業は、国内でもコスト低下による収益向上を強力に進めた。コストが高く簡単に解雇できない正社員を減らし、低賃金であり人員の増減が容易にできる非正規社員を増やした。人口減少が続きコストが高い日本国内での生産や雇用は極力抑えることが、海外株主の割合が増えた株式市場の要請に答えることでもあった。
こうして、リーマン・ショック以前には、日本企業の収益は史上最高を記録するまでに急成長したのである(図表2)。それに伴い、日本の対外純資産もこの2001年から現在までに170兆円も増加した。国民1人当たり140万円も増えた計算になる。しかし、そのほとんどは企業の海外での事業の拡大に使われ、日本国内には還流していない。

小泉政権は、こうした大企業の動きを後押しした。政府が関与した強制的な不良債権処理によって、これまでの取引相手や地域との関係を絶ち、工場を海外に移すことは容易になり、規制緩和によって従業員の解雇や非正規社員への切り替えも容易になった。