昨年、60年ぶりの本格的な政権交代を経て民主党政権が誕生した。

 そして今、新政権の方針を示すべき最初の予算が国会で審議されている。しかし、実際は、国会の議論のほとんどは「政治とカネ」の問題に費やされ、肝心の財政や経済の今後の方向については、野党もマスコミもほとんど関心がないようである。このままでは、本質的な議論を経ることなく、予算審議は終わってしまいそうだ。それでいいのだろうか。

敗戦直後の日本経済

 よく見れば、今の日本経済は敗戦直後としか言いようがない。国民の暮らしは追い詰められ、政府の財政は戦後最悪の状態に置かれている。頼みのはずの大企業の世界での競争力は急速に低下している。これまで積み上げた世界一の対外資産は、国民の将来の安心にも日本経済の成長にもほとんど役に立っていない。

 経済政策の失敗によって、日本は1990年代以降の世界経済の構造変化への適応に失敗したからだ。そして、この経済敗戦こそが、戦後の組合運動や学生運動や社会主義への路線闘争でも倒れなかった自民党政権を終わらせたのだ。

 経済敗戦を最も明確に示すのは財政だ。民主党は、マニフェストの財源を捻出できない、と批判されている。

 確かに、1月に辞任した藤井裕久前財務大臣は、就任直後に「207兆円に上る一般会計と特別会計の中から、マニフェストの7.5兆円の優先順位をつけるのは必ずできる、実行する」と言いながら、全省庁へのシーリング(5%のシーリングなら10兆円確保できる計算である)での財源確保もせず、一方で、旧来の補正予算を8兆円も組むというチグハグな財政運営を行った。

 しかも、補正予算の規模は、連立政権に参加する大臣の一声で1兆円増えたという。

100兆円のはずの税収がわずか37兆円

 しかし、財政危機の本質は、民主党が支出を削れないことではない。日本の税収が恐るべきレベルにまで低下したことだ。今年度の一般税収は、37兆円に過ぎない。20年前の1990年度の一般税収が60兆円だったから、それを4割も下回る。

 しかも、1990年当時の大蔵省は、高齢化が進む2010年頃には財政支出が増大するが、経済成長によって2010年頃の税収は100兆円まで増加し、増大する支出を賄うという長期財政シナリオを描いていた。

 その見通し通り、高齢化の進行により年金や医療などの財政支出は増大し、来年度の財政支出規模は100兆円に迫る。ところが、税収の方は、20年前の見通しの3分の1しかない。そのために、1946年の敗戦直後以来初めて、国債の発行が一般税収を上回ることになったのだ。まさに、日本の財政は敗戦直後なのだ。