日経新聞と読売新聞は3月5日朝刊で、日銀が追加金融緩和の検討に入ったと報道した。新型オペの6カ月への期間延長や供給規模の10兆円からの上積みが議論の軸になる見込みで、3月16、17日の金融政策決定会合から4月にかけて、本格的に協議するという。国債買い切りオペの増額について日経は、「今回は見送る公算が大きい」とした。読売は、新型オペの拡充による緩和強化が検討されるとした上で、期末越えの通常のオペの回数と金額も増やす、とした。
為替の円高が進行すれば、日銀がデフレ対応強化の名目で、円高阻止のため追加緩和に動かざるを得なくなる。市場がすでに十分想定している政策の流れであり、日銀が追加緩和を「検討」という報道が出てくること自体に違和感はない。また、昨年12月に導入した3カ月物の新型オペの残高はすでに10兆円規模に達しており(2月末時点で10兆6068億円)、そのロールオーバーにとどまらない追加的な緩和措置が3月の金融政策決定会合で議論されるのではないかという観測が、市場に燻っていた。
これより前、日銀の野田忠男審議委員が3月4日に滋賀県大津市で行った挨拶(講演)と記者会見の内容は、上記のような観測報道が出てくる「伏線」とでも言うべき内容だった。筆者が地方出張中であったためリポートが遅くなったが、ここでその内容を見ておきたい。
野田審議委員が行った講演のタイトルは、「金融政策FAQ」。FAQとは、Frequently Asked Questions(頻繁に尋ねられる質問)の略である。ちなみに、昨年12月7日にバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が行った、「恐るべき逆風」という名文句が口にされた講演の題名は、“Frequently Asked Questions” であった。
日本経済について野田委員は、牽引役である輸出が「海外経済の回復に支えられて、増加を続ける」と予想しつつ、同時に、「わが国経済について、なお慎重な構えを崩せない状況」であるとも指摘。「経済活動の水準が依然として相当低いところにある」ことを、その理由とした。
リスク要因に関しては、最大のものは海外経済の動向であるとしたが、新興国の経済が上振れていることなどから、「ひと頃に比べ下振れリスクは緩和」「総じて上下のリスクがバランスする方向にシフトしている」という見方が示された。また、企業の海外シフトによる「空洞化」の問題については、「多くの企業で海外生産のウエイト引き上げの検討が進んでいると伝えられています。こうした海外への生産シフトが、国内における設備投資や雇用はもとより、輸出入の構造にどのように影響していくか、注意深く点検していく必要があります」と述べて、中村清次審議委員の「空洞化」警戒論に同調した。
また、デフレの問題で野田委員は、「物価の基調を示すと言われる食料・エネルギーを除くベース(コアコア)では、前年比の下落幅の拡大に足元まで歯止めがかかっていません」と明言。その原因については、「需要不足」としている白川方明総裁に同調した。「デフレ脱却の処方箋をまとめますと、極めて緩和的な金融環境を継続することがデフレ脱却の必要条件の1つであり、もう1つは、デフレの根本的な原因――需要不足――を直視し、『潜在的な需要の発掘と捕捉』『生産性の向上』という課題に地道に取り組むことです」と述べた。