日本航空再建のサイドストーリーとして話題をさらってきた「日航争奪戦」は、米2位アメリカン航空の辛勝で終わった。日航はアメリカン主導の航空連合「ワンワールド」に残留する道を選び、2月12日、米運輸省に提携強化に向けた独占禁止法の適用除外(ATI)を申請した。
当初優位だったデルタ航空の引き抜き提携が覆されたのは、就任間もない稲盛和夫会長の意向が大きい。その背景には、もはや航空連合の移籍リスクを冒せない日航の厳しい懐事情がある。
ネットワークキャリアとしての生き残りを掲げる日航だが、赤字体質の巨体にはいまだ改革のメスが入っておらず、今後は、病巣の摘出=抜本的なリストラが欠かせない。再建に携わる金融筋によると「日航は国際線をどこまで残せるのかという瀬戸際」にある。そして「倒産会社としての切迫感を日航自身が抱えていない――これこそが最大の問題」という。
デルタは08年から引き抜き模索
世界の主要航空会社は「スターアライアンス」「スカイチーム」「ワンワールド」の3大航空連合に分かれ、システムや運航の共有化によって三つ巴の激戦を繰り広げている。日航争奪戦はそれを象徴する出来事であり、水面下の動きは少なくとも1年以上前から起きていた。
金融関係者らによると、デルタが最初に日航に移籍を持ちかけたのは2008年秋。デルタがノースウエスト航空の買収を終え、世界首位の座を仕留めた時とほぼ同じタイミングだった。
デルタは金融危機後の世界的な景気後退の中、「生き残りには積極的なネットワーク強化が不可欠」(交渉筋)として日航の獲得に動きだした。同じスカイチームに属しながら、日航とも提携関係にあるエールフランスを仲介役として移籍を打診。同年12月には、デルタの担当幹部は日航の国際業務部役員級との協議にこぎ着けている。
だが、この時点で日航が誘いに乗ることはなく、提案はしばらく放置された。
国際線リストラ期待で、提案はデルタ優位に
日航が再びデルタとの交渉のテーブルに着いたのは、経営状況が一段と深刻となった2009年夏だった。6月に日本政策投資銀行、3メガバンクと1000億円の緊急融資契約を結んだ日航は、政府、金融機関に経営改革を迫られる。国土交通省の働き掛けもあり、改革の一案としてデルタ提携の検討を本格化させた。そして9月11日、「日航、デルタと提携交渉」と報じられた後は、アメリカンも提携維持に向けた提案を表明。米2大航空大手による争奪戦に発展した。