麻生太郎首相が医師不足問題に関連してこう言いました。「はっきり言って(医者は)社会的常識がかなり欠落している人が多い。とにかくものすごく価値判断が違う」

 本当にびっくりしました。「妊婦たらい回し事件」について、某有力政治家が「人手が足りないだの、忙しいだの言っているのはタダの言い訳。妊婦を受け入れないなどというのは医者のモラルが低下しているせいだ」と言ったそうですが、その発言がかすんでしまうくらいの衝撃です。

 現場で必死に頑張っている医師たちからすると、社会常識とかモラルの問題にされてしまっては本当にやるせないです。麻生首相や政治家の先生の発言は、最前線の医師たちがどのような思いで仕事をしているのか、理解したうえでの発言なのでしょうか? 政治的配慮の末、形だけの謝罪をして “終わり” では、現場の医師たちは到底納得できません。

「365日、24時間、医者であれ」

 私が学生だった頃、当時、東京大学神経内科教授で、その後、宮内庁病院 皇室医務主管(侍医長)を務められた金澤一郎先生に指導を受けました。先生は「医者になった以上、プライベートだのなんだの言わずに、すべてを医療にささげるのが当然」とおっしゃっていました。

 また、幕内雅敏先生(当時、東京大学肝胆膵外科教授、現日本赤十字社医療センター院長)は、2007年7月にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演された際に、「365日、24時間、医者であれ」と語っていました。先生は東大医学部教授時代、本当に毎日教授回診をされていました。大晦日も欠かさずです。さすがに元日は教授回診こそされなかったものの、病院には来ていましたし、1月2日以降は毎日回診していました。研修医たちもそのような指導を受けていました。

 医療は、9~17時だけの仕事で済まされるものではありません。夜間・休日・祝日においても患者への対応が迫られます。そして言い訳をしないで、どんな状況であろうとも、ベストのパフォーマンスを発揮するのがプロフェッショナルとしての医師の責務です。

 誰だって医者になった以上は、それは分かっています。100%の医師がそう思っていると言うと言いすぎかもしれないけれど、98%の医師たちはそう思っていると言って間違いないでしょう。

 でも、世の常なのかもしれませんが、理想と現実にはギャップが存在するのです。現在、医師たちはその理想と現実の狭間でもがいています。

 NHKが放映している「ER緊急救命室」という海外の人気医療ドラマがあります。そのドラマの中で、違和感を覚えるところがありました。ERの先生たちが夜の勤務明けの朝に、出勤してくる医師と交代で病院を出ていくシーンが時々あるのです(事故などが起きたりして帰れなくなってしまうこともありますが)。これは、日本の現実からすると、ものすごく違和感を覚えます。