前回に引き続き、不況時に本流トヨタ方式の製造現場ではどのような改革が行われてきたのかを解説します。前回は、(1)目標とする「あるべき姿」を明確に掲げる、(2)まず「評価指標の改革」をする、というポイントを解説しました。
今回は、(3)むやみに経費削減をしない、(4)減産と分かったらまず在庫を減らす、(5)「寄せる・止める改善」を展開する、というポイントについてです。
(3)経費を削減すると在庫が増える
会社全体から見た時、不況時に一番気をつけなければいけないのは、帳簿の上では儲かっているはずなのに、製品が売れないためキャッシュが入ってこなくなり、支払いができなくなって倒産、という事態です。世に言う「勘定合って銭足らず」「黒字倒産」です。
誰もが分かっていながらこういう倒産が続くところを見ると、在庫管理システムと評価指標に問題があると考えざるを得ません。
倒産しかけた会社の立て直しに行った先輩から教えてもらった「犯しやすい過ち」があります。それは、「赤字を恐れ、全社に費用削減の大号令を発するという過ち」だそうです。
工場では、「費用を減らせ」→「労務費を減らせ」→「現場の工数を減らせ」と短絡思考に走り、見かけの工数低減に奔走します。段取り回数を減らし、工程内運搬の人員を減らすのです。すると工場は大ロットで生産し、運搬するようになります。その結果、仕掛品が溜まっていきます。
資材調達部門には仕入れ価格の低減が求められます。すると、業者の言いなりになって、大ロットで仕入れてしまいます。その結果、資材倉庫が満タンになっていきます。
物流部門は、運賃の低減を求められます。すると、物流業者を選び、大型トラックで満車にして運ぶようになります。その結果、完成品倉庫が一杯になっていきます。製造工程が減産に踏み切っても、このようにして在庫は増えていくのです。一方で売上高が減っていくので、キャッシュが回らなくなってしまうのだという話です。
在庫が増える理由について、「なぜ」を繰り返していくと、本当の原因は、原価に労務費や経費までを含む「全部原価計算」に基づく管理会計にたどり着くのです。
(4)減産と分かったらまず在庫を減らす
では、要員を減らすのではなく、在庫を減らした場合、キャッシュの流れがどうなるのかを計算してみましょう。
製造原価「1万円/個」の製品を月に1万台生産している工場があったとします。工場では目一杯の生産をしていたので、欠品にならないように2カ月分の在庫を抱えて生産していました。
原価のうち、内製加工費(人件費)比率は15%なので、1個につき人件費は1500円。月額にすると1500万円の人件費ということになります。一方、材料費は1個につき8500円。月額にすると8500万円の支払いです。
従って現在の工場内の2カ月分の在庫は金額に直すと「2カ月×8500万円=1億7000万円」です。