2ケタ失業率が続くなど、米経済は依然として厳しい状況にある。これに対し、世界同時不況からV字型の回復軌道に乗ったアジア地域は、中国やインドを中心に経済成長センターとしての地位を確立しつつある。
世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が停滞する中で、アジア各国は地域経済統合や自由貿易協定(FTA)締結の動きを活発化させている。オバマ政権が米経済を成長路線に戻すには、東アジア経済圏に食い込み、貿易や投資などに関わる障壁を下げる協定締結が死活問題となる。
しかし2010年秋の中間選挙を控え、米国の有権者は雇用に悪影響を及ぼす自由貿易には総じて批判的だ。医療保険改革で踏み絵を踏まされた民主党議員も本音では、自由貿易にはできるだけ触れたくない。
指導力示せぬオバマ大統領、本音は保護主義から転換?
2009年に初めて出席したアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で各国の指導者から米国のスタンスを問われ、通商政策を未だ決められないオバマ大統領はそそくさとシンガポールを後にした。
有識者の間では、ドーハ・ラウンドやAPECで明確な指導力を示せないオバマ政権に懸念の声が上がる。議会がFTAに待ったを掛けて内向きの政策を取る限り、「米国は東アジアの経済圏から締め出されるのではないか」という悲観論さえ聞こえてくる。
次の30年間は世界経済の重心が、米国からアジアおよび太平洋地域へ移行する。それを見据えながらオバマ政権は東アジアの地域経済統合にどう対応するのか、戦略的選択を迫られている。
本音では、米国が指導力を発揮して太平洋地域に新しいFTAを確立することが重要だと考えているはず。例えば、2009年に来日した際の演説でオバマ大統領は議会に対し、現在の保護主義的方向から転換すべきだと異例のメッセージを発信している。
「米国の皆さんに知ってもらいたいのは、我々はアジア地域に将来の大きな利益と責任があるということであり、ここ(=アジア)で起こることは米国の我々の生活に直接影響する。(中略)輸出によって米国での雇用を増やすことができるのだ。アジア太平洋国家の1つである米国は、この地域の将来像を形作る議論に参加し、新しい動きに全面で関与していくべきなのだ」