もし北朝鮮の政権が崩壊した場合、日本はどんな対応をすることとなるのか――。

 日本としては当然、考えておかねばならない危機シナリオである。だが、現実に日本国内でその具体的なシミュレーション(模擬演習)を実行している向きはまずないだろう。

 ところが米国ではそんな想定が極めて細かく考えられ、論じられているのだ。

 北朝鮮の崩壊という事態はもうここ数十年、米国では具体的に語られてきた。だが金正日カルト政権は倒れそうで倒れず、今日までに至っている。それでもなお、封建時代の王朝にも例えられるこの現代の異質、異端の政権が倒れる可能性は、完全に否定することもできないままである。

 そんな事態がもし起きてしまったら、どうするのか。その予測をちょっとでも考えておく場合と、まったく考えない場合の相違は重大である。

北朝鮮の政権崩壊時の対応を現実的に考えている米国

 米国の国防長官のシンクタンクだとされる「国防大学国家戦略研究所(INSS)」はこのほど北朝鮮の金政権が崩壊した場合の、中国や米国、韓国、そして日本の反応を予測する調査報告を作成した。

 同報告は中国の軍事介入による米中全面対決の可能性を指摘しながらも、北朝鮮国民の動き次第では中国の支配を排する新生国家の誕生の展望もあるだろうと述べている点が面白い。そしてその多様なシナリオ展開の中で、日本の対応をも詳しく記述したのである。

 米国の国防総省や国防長官に直結する機関が「北朝鮮政権の崩壊」という具体的なシナリオを明確に設定し、その場合の他国や自国の反応を予測する、というのは、実に生々しい作業である。だが、政府や軍にも間接的につながる機関の専門家たちがそんな作業に取り組んでいること自体が注視されるべきだろう。米国は北朝鮮の政権崩壊の展望をすでに現実に起き得る事態として認識し、その対応策を考えていると言えるからだ。

 「朝鮮の将来=北朝鮮の政権崩壊の米国外交への挑戦」と題された同報告は、「北朝鮮の近未来の崩壊への実際の証拠を得たわけではないが、最も現実的なシナリオとしては政権の崩壊が考えられる」という診断を打ち出した。