樹研工業(愛知県豊橋市)は重さが100万分の1グラムという世界最小の歯車の開発で知られるプラスチック小型精密部品メーカーだ。
松浦元男社長自らが「恐らく実用化されることはない」と話すこの世界最小歯車によって、その卓越した技術力や品質管理力をアピールし、今や世界中から注目される存在となった中小企業である。
樹研工業は「世界ナンバーワンの技術で勝負する」という松浦社長の企業理念と、自由度が高く働くことの喜びを大事にする会社運営によって社員のやる気を引き出し、組織の潜在力を最大限に引き出すことに成功している。同社の取り組みから、その秘訣に迫りたい。
経営者の役割は明確なビジョンの提示
就職試験は課さず、先着順で採用する――少子化が進む中で、採用段階でセグメント化を進める企業が多い中にあって、同社の採用試験は非常にユニークだ。
採用人数と採用申込日を告知したら、後は受付日に着た順に採用を決める。特に履歴書も見ることなく、先着順で採用を決めるという。新入社員の中には複数の他企業の採用試験に失敗し、樹研工業の門をたたくケースもあるそうだ。
「豊橋の地は東にトヨタ自動車とその関連企業、西にホンダ、スズキ、ヤマハ発動機が存在し、そんな大企業に挟まれては採用試験で人材を選り好みなどできない」と松浦社長は笑うが、樹研工業に入社した後の社員の能力開発には非常に注目すべき点がある。
自らの創意で工夫し、足りない知識は猛勉強する。与えられた課題である「世界ナンバーワンの技術」に向かって組織全体で能動的な努力を行っているのだ。
それはどうしたきっかけで起こるのか。松浦氏によれば、経営者がまず社員に提示しなければいけないのは「50年後にはうちの会社はこんなふうになっている」という明確な長期ビジョンだという。