多くのスポーツで分析ツールの普及や可視化されたGPSデータを見ることが多くなったスポーツ界。そんな今だからこそスポーツの現場にいる人だけでなく、応援する人にのデータリテラシーの向上、すなわちデータを正しく理解する力が求められている。
そこで日本サッカー発展のヒントを岡崎慎司さんと探る動画コンテンツ「Dialogue w/」は、東大ア式蹴球部テクニカルユニットのアナリスト横田義典さんをお呼びし、データが出来ること・出来ないこと、秘めたる可能性、具体的な分析ツールの紹介と運用方法、費用等についてお話しいただき、まだまだ発展途上にある日本サッカーの「データ分析」の輪郭を掴んでいく。
(本稿は動画『日本サッカー「データ分析」の現在地』の一部を再編集した前編)
監督と選手、両者にとってのデータの違い
—— 「データ」と言っても、選手と監督では「データ」に対する認識は違いますよね?
横田義典(以下、横田):そもそも選手と監督では、データを使う目的が違います。
例えば監督はチームの “ゲームモデル” を実現するために、その指標となるデータを見ます。
例えばポゼッションを高めるサッカーなら「選手がどのゾーンでどのくらい長くボールを持っていたか」「ビルドアップの時に相手の守備のファーストラインを何回効果的に超えられたか」というデータを注視します。
一方で選手たちはそれらのデータをあまり重視しないと思います。
特にFWの選手たちにとっては「点を取る」ことに直接は関係がないビルドアップのデータはあまり気にしないのでないでしょうか。
FWの選手が気にするのは例えばPA外から打ったシュートが1ゴールになったという数字ではなくて、シュートが上手かったのか?オフザボールの動きが良かったのかというゴールになったピッチ上の要因です。
つまり監督が全体をマネジメントするときにはデータは使えるが、選手個人がデータをプレーに活かすのは難しいと思います。特に映像が伴っていないデータを選手が見て次回のアクションに活かす難易度は高いです。
—— 現在、バサラ・マインツの監督を務める岡崎さんも、チームのトレーニングにデータを使用されているのでしょうか?
岡崎慎司(以下、岡崎):サッカーの分析ができる知り合いにチームの動画を送って、練習の目的に合わせたフィードバックをもらうようにしています。
映像を見ながらデータを分析すると勉強になることが多いです。
例えば、自分の頭の中にあることでも、実際に切り抜いてもらった動画を見ることで、90分の間にやるべきことが明確になっていきます。
チームとしてビルドアップしていくことは大切だけど、一気にファイナルサードまで突入したり、ダイナミックなロングボールで攻めたりすることも、試合の戦況や相手のレベルによって求められてくる。
そんな時にデータがあると、ただ「走れ!」や「切り替えろ!」と指示を出すのではない方法で指示やフィードバックが出来ると感じています。
データは信頼できる?サッカーでデータを使うメリット
ーー世の中には、データに対する信頼度が高い人たちもいれば、データをあまり重要視していない人たちもいますよね?
横田 重要なのは情報リテラシーがあるかどうかだと思います。
データは、論理的な根拠のひとつにはなるけれど、それ自体が何かをしてくれるわけではない。あくまで意思決定の材料にしかならないんです。
でも、子どもの頃からサッカーに集中してきた選手たちは、データを見ることにあまり馴染みがない人が多い。これは日本だけでなくヨーロッパのトップチームにも言えることだと思います。
またデータに馴染みがないのは指導者も同じ。
アナリストから指導者になった方はデータに対して過度な期待はしないと思いますが、現役の選手がそのままトップクラブの監督になった場合、まずはデータの見方から学んでいく必要があると思うんです。
選手たちや監督だけでなく、サッカーに関わるすべての人たちが、正しい情報リテラシーを持つ。それが人々のデータの対するイメージを変える、第一歩になるのではないでしょうか。
—— 監督にとってデータを使うことの強みはどこにあると思いますか?
岡崎:監督として勝つために大切なことがわかっていても、試合中に選手たちに的確な指示を出せなければ意味がない。
そのためには、まずどれだけ多くの情報を集められるかが一番肝心です。それは選手も監督も同じだと思います。
たくさん集めた情報をひとつに凝縮して、短い試合時間の中で何をどう選手たちに伝えられるか。その意思決定に監督の力量が表れていくと思いますし、データは意思決定の一助になるかもしれないと考えています。(文・坂本遼佑)
シンクロナス「Dialogue w/」では、日本代表で活躍し、現在はドイツのクラブで監督を務めている岡崎慎司とサッカー界のキーマンや、注目選手たちとの対談動画を配信しています。