米製造業の象徴ビッグ3(3大自動車メーカー)に破綻の危機が迫ってきた。業界が労使一体で支持・応援した民主党のオバマ上院議員の大統領選勝利を喜んだのも束の間、金融危機の深刻化や四半世紀ぶりという10月の自動車販売不振を受け、資金繰りが急速に悪化したのだ。しかしブッシュ政権の反対で、頼みの綱の政府による低利融資にはめどが立たない。果たして、ビッグ3支援を公言してきたオバマ氏は救世主となるのだろうか。
「せめて自家用ジェット機で(ワシントンに)来るのを止め、定期路線のファーストクラスに格下げしたらどうか」「(燃費の悪い)ガソリンがぶ飲み車じゃなくて、(外国メーカー製のような)買いたい車をつくってくれよ」「(政府がなし崩し的に追加支援を迫られている)AIGのようにならないと、どうして分かるのか」
11月18、19の両日、ビッグ3首脳を招いて開かれた米上下両院の公聴会は、共和、民主両党の議員が党派を問わず米国民の不満を代弁する場となった。経営幹部や組合員の恵まれた待遇と高給、燃費の悪いスポーツ用多目的車(SUV)やピックアップトラック中心の車種構成・・・。長年のビッグ3への不満が一気に噴出した。
これに先立つ17日、民主党指導部はビッグ3に対する250億ドル(約2兆4000億円)低利つなぎ融資を柱とする追加景気対策法案を提出。財源には、米銀への公的資金投入を目的とする金融安定化法の資金枠(総額7000億ドル)の一部を充てるという。
「時給7000円」GM労働者を税金で救う?
公聴会はこの法案審議の一環。ゼネラル・モーターズ(GM)のリック・ワゴナー会長兼最高経営責任者(CEO)が証言で「存亡の危機にある」と窮状を訴えれば、クライスラーのロバート・ナルデリ会長兼CEOも「直ちに政府支援が得られなければ、流動性は操業維持に必要な水準を下回る恐れがある」となりふり構わず救済を求めた。
さらに、ビッグ3のうち1社でも破綻すれば、部品メーカーや販売店にも連鎖して300万人規模の失業につながり、ワゴナー会長は米経済の「破滅的崩壊」が起こると警告を発した。
過去の好業績時代の労使協約で給与・待遇の水準が高く設定されたGMの労働者は、今なお平均時給75ドル(約7000円)という「高給取り」。「わが選挙区より1.5倍か2倍以上の高い水準だ。なぜビッグ3に税金投入が必要なのか理解できない」(スペンサー・バッカス下院金融サービス委員会共和党筆頭理事)。こうした声は民主党内からも聞かれる。ミシガンなどビッグ3の工場がある州の選出議員を除き、法案への支持が拡大しているとは言い難い。
ブッシュ政権と共和党は「金融安定化法は金融機関のためのものだ」(ポールソン財務長官)と主張し、同法適用に反対している。ウォールストリート・ジャーナル紙をはじめ米メディアも、金融機関救済の際とは異なり、ビッグ3への税金投入には冷ややかだ。
このため、自動車業界への同情論は広がらない。民主党指導部は20日、支援策を盛り込んだ法案の可決を見送った。ビッグ3の抜本的な経営再建策提出を条件に、12月上旬に臨時本会議を招集する方針だが、先行きは不透明だ。