ブータンはヒマラヤ山脈の中に位置し、九州とほぼ同じ面積に70万人ほどが住む小さな国である。そのブータンが生み出した言葉に「GNH」がある。GNHとは「Gross National Happiness」の頭文字だ。1976年に当時21歳だったブータンの4代目国王が打ち出した、「物質的な豊かさ」ではなく「人々の幸せの最大化」を目標に掲げたブータン独自の開発理論である。

 ブータンは最近まで鎖国を続け、山岳地帯で牧畜を行う人々と盆地で農作物を作る人々が物々交換をする生活を行ってきた。またGNHを目標にした国造りが行われていることから、日本では「秘境」「桃源郷」というイメージが定着している。

首都ティンプーでは2人に1人が自動車を保有

 この9月にそんなブータンを訪れる機会に恵まれた。

 鎖国を行っていたと述べたが、現在は行っていない。文明の流入を嫌うために外国人の流入を制限しているなどと言われることもあるが、それは事実ではない。ブータンは積極的に観光客を受け入れている。

ティンプー

 観光客の誘致には、先に挙げた秘境、桃源郷というイメージが大いに役立っているようだ。観光客はアメリカからが最も多く、それに日本が続く。ヨーロッパからの観光客も多い。「お金」や「効率」に追い回される生活を送っている人々は、それが目標になっていない社会を覗いてみたいと思うのだろう。

 現在、ブータンに国際空港は1つしかない。空港のある街パロから車で1.5時間ほど行くと首都ティンプーに着く。

 GNHを標榜する秘境の国の首都とはどのようなものだろうかと興味津々で訪れたのだが、そこは開発と建設ラッシュに沸く開発途上国の一都市でしかなかった。

 ティンプーは山間の狭い盆地にあり、つい30年ほど前まではただの小さな寒村だった。だが、その寒村の人口は現在10万にもなっており、全人口の7分の1が首都に集中している。

 中国の雲南省などと共にブータンには多くの棚田があるが、その棚田が次々に宅地やホテルの建設用地に変わっている。盆地と言っても猫の額ほどの平地しかないティンプーの土地の価格は天井知らずに高騰している。そんな状況だから、首都周辺の棚田はこれからの数年でほぼ全てが宅地に変わってしまうだろう。