国を信用できないから誰もお金を使わない

鎌田 實(かまた・みのる) 1948年、東京都生まれ。74年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県の諏訪中央病院にて地域と一体となった医療や患者の心のケアも含め

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鎌田 日本人の個人金融資産を合わせると1500兆円にも達するそうです。なぜみんなそのお金を使わないのか。それはこの国を信じていないからです。

 僕は田舎で往診をしているんだけど、今、診ている85歳のおばあさんに「貯金ある?」って聞くと、年金がたまって100万円近くあるって言うんですよ。「お嫁さんに苦労かけてるだろうから、何か買ってあげたらお嫁さん喜ぶぞ」とか「お孫さんを連れて日帰り温泉でも行って、おいしいものでも食べさせてあげたら」って言うと、「老後が心配だからお金を使えない」だって。もう老後そのものなのにね。

 要は、政府が信用できないということですよ。いざという時に、この国は自分を守ってくれないと思っているんですよ。こういうおばあちゃんたちが安心してお金を使い切れるような社会にすれば、もう一度日本の経済は世界ナンバーワンになりますよ。

 だから国は発想を変えるべきなんです。ダムとか道路とか新幹線を作って経済を活性化しようとするんじゃなくて、年を取っても、病気になっても安心してお金を使えるような国にすることです。

バランスが取れている状態、それが「いいかげん」

──医療や福祉を充実させるための財源はどうやって捻出しますか。

鎌田 麻生さんが打ち出した生活定額給付金はまったく意味のないものだと思うけど、消費税を3年後に引き上げると言及したことは、評価しているんです。

 僕は、日本の資本主義の下半身に血を通わせるためには消費税を上げるしか方法はないと思う。欧州では10~20%が当たり前。隣の韓国だって10%でしょ。年金、医療、福祉の立て直しをするためには、日本も消費税を引き上げるしかない。

 こういう国づくりをするために消費税を上げるんだと明確にすることが大事なんだと思います。国のお金を使わないと医療も福祉も良くなりません。政治家が国民に向けて熱いメッセージを出すべきですよ。医療、福祉、介護は万全の国にするから、安心して貯金を使ってくださいと。それが暖かい資本主義なんです。

──今の日本は「いいかげん」になっていないんですね。

鎌田 経済も健康も幸せも、「かげん」が大事だと思うんですよ。米国で金融機関が次々に破綻しましたが、それはかげんを見失って際限なく儲けようと思ったからこういうことになったんでしょう。

 人間の体だって同じことです。交感神経がずっと緊張していると血圧が上がっていくし、心筋梗塞や脳梗塞になりやすくなる。だから1日に数分でもいいから副交感神経が優位の時間を作るべきなんです。例えば夕日を見て感動したり、おいしいものを食べて幸せな気分になるとかね。そうすると副交感神経が優位になる。血圧が下がって、血管が拡張して、血行も良くなる、リンパ球が増えて免疫力も上がりますよ。

 日本で生きたら必ず交感神経優位になってしまいますからね。だから意識的に副交感神経が優位な時間を作らないと。

 知り合いの経営者の中には、よくそんなストレスの中で仕事をしていられるなと思うような人がいるけど、必ずリラックスする時間を作り、交換神経と副交換神経を上手にコントロールしています。何事もバランスの上に成り立っているんですよ。健康もそうだし、経済だって同じことです。