「米大統領選は米国民に任せておけないほど重要だ。だから、世界の国民が投票に参加しなければならない」──。数年前からロシアでは冗談交じりにこう言われていた。

 確かにそれも一理ありそうだ。2000年にわずかの票差とはいえブッシュ氏を大統領に選んでしまった米国民の責任は重い。オバマ氏を選んだのには、反省の意も多少は含まれているのだろう。

 とはいえ米国において、9月の時点ではオバマ氏とマケイン氏の支持率は五分五分だった。一方、同じ時期にBBCが米国以外の世界各国で調査したところ、支持率は49対12だったという。だからオバマ氏の当選には、米国人よりも外国人の方が喜んでいるのかもしれない。

 しかしロシア人の場合はちょっと違う。ある調査では、日本における米大統領選に対する関心度は米国をも上回る83%、欧州の50%前後に対して、ロシアはたったの23%しかなかった。ちなみに中国はもっと下回っていて、17%である。タカ派的で年寄りのマケイン氏よりも、若くてソフト、さらには見栄えもいいオバマ氏の方が望ましいというムードはロシア国民の間にもあったが、特別な盛り上がりはなかった。

 その理由はいくつか挙げられる。まず、ロシア人は先天的な悲観論者である。「チェンジ」(変革)を信じないのだ。大統領が代わっても、そんなに簡単に良くなるとは思わない。そもそも今まで米国と敵対的な関係になっていた原因は、両国の大統領よりも、むしろ国家そのものの成り立ちや性格のせいだと思う人は少なくない。ロシア政府も今回の選挙の結果について、かなり慎重だ。

ブッシュ政権への反省を踏まえて

 今までの発言から判断すると、オバマ氏は相当穏やかで、冷静だ。固定観念にはこだわっていないように見える。国防費の無駄遣いも減らそうとする。一言で言うと、ネオコンの思想とは一線を画している。

 オバマ氏の公式サイト「origin.barackobama.com」を見ると、ロシアとの外交について前政権とは違うアプローチを提示している。例えば、プーチン首相との個人的な関係を重視しながらロシアという国家に対して十分な配慮をしてこなかったブッシュ政権を批判している。同時に「ロシアは旧ソ連ではない」「20世紀型の古臭い外交方針をロシアに適応するのは米国の国益に合致しない」と指摘する。

 また、両国にとって争点となる様々な問題を取り扱う場合、紛争や軍事的な対立に展開しないように、対話を通じて予防的に取り組まなければならない。核不拡散、核兵器削減、貿易と投資の拡大、テロとの戦いなどの共通の課題について直接ロシア政府と共に働き、一緒に頑張らなければならないと主張する。

 オバマ氏はそれぞれの国を色眼鏡で見ることはせず、ロシアを含めて世界の国々に対して、新たな世界システム構築へのコミットメントを促す。その見方は、NATO(北大西洋条約機構)みたいな古い枠組みに代わる新しい体制の構築を訴えるメドベージェフ大統領の発想にも共振する。