医者は治療費の金額を知りません──。
いきなりそう言われても、にわかには信じられないことでしょう。
でも、意外と思われるかもしれませんが、医者の大多数(私の個人的見解では95%以上)は治療費を知らないのです。
開業医になって値段が答えられるように
私が東大病院に勤務していた合計7年近くの間、「先生、その治療費っていくらなの?」と聞かれたことは、ただの1回もありませんでした。
大学病院の医者は治療費を聞かれても、いくらなのかを知りません。少なくとも私が大学病院にいた時はそうでした。聞かれたところで、「あ、それは事務の方に聞いてください」でおしまいだったと思います。大学病院を受診される方は、病院内のいろいろな部分に敏感です。おそらくどうせ医者に聞いてもムダだと思って、聞かなかったのでしょう。
でも、受診する人は誰だって治療費を知りたいのです。今のクリニックを開業した2年ちょっと前、当時はまだ珍しい電子メールでの質問受け付けを行ったところ、一番多かった質問は「治療費はいくらかかりますか?」でした。2位以下を倍以上引き離して断トツのトップです。その次が「予約が必要ですか?」とか「いつ頃、検査予約できますか?」といった質問でした。
開業医として働いていると、実際に治療費を聞かれることがたびたびあります。おかげで、「で、先生。胃の内視鏡検査を1回受けた方がいいっていうのは分かるんだけど、その鼻から入れる楽チンな検査(経鼻胃内視鏡検査)っていうのは、受けるといくらぐらいかかるの?」と聞かれたら、「7000~8000円くらいかな。それに加えてピロリ菌検査とかもすると1万円を超えちゃいますけど」と、正確な値段はともかく、ざっくりした金額はすぐに答えられるようになりました。
あまりにも複雑な保険点数表の中身
それにしても治療方針や治療薬品の決定に絶対的な権限を持っている医者たちが、なぜ治療費の金額を知らないのでしょうか?
最大の原因は、現在の医療保険制度にあります。医療費は、国が定めた保険点数表に従って厳密に決められており、医者が現場で決められるものではないのです。
また、医療保険の金額(点数)は患者の症状に応じてこと細かく項目が決められています。点数表の内容は極めて複雑で、その分量は電話帳1冊分にもなります。点数表を学ぶための専門学校や通信講座もあるぐらいでして、全部を理解するのはかなり困難です。