13日の米株式市場では、ニューヨークダウ工業株30種平均が過去3番目の上げ幅である+552.59ドルを記録する、意外な展開になった。朝方は、11月8日までのイニシャルクレームが、米同時テロ事件が発生した2001年9月の水準にほぼ並ぶ51万6000件(前週比+3万2000件)となったことが嫌気されたこともあり、一時は前日比317ドルほど下落して7965.42ドルとなり、8000ドルを割り込む場面もあった。
だが、その後は取引終了にかけて、ほぼ一本調子で上昇した。月内にOPEC(石油輸出国機構)が緊急会合を開催して追加減産に動くとの見方が急浮上する中で、石油関連株に値頃感からの買いが強まったほか、3日間続落してきた中で下げがきつかった銘柄に押し目買いが持ち込まれたのが主因とされる。
だが、米国経済の核である個人消費に大きな影響を持つ雇用情勢について、一段の悪化が起こっていることを示すエビデンスが出てきたという事実は重い。FRB(米連邦準備制度理事会)は信用収縮や逆資産効果に加えて、消費の先行きを見ていく上で、よりベーシックな要素である雇用賃金情勢の先行きを、強く警戒している。
イニシャルクレームの一段の増加(4週移動平均は49万1000件に増加している)、さらには11月1日までの週の失業保険受給者総数が389万7000人(前週比+6万5000人)となり、1983年1月以来、実に25年10か月ぶりの高水準になったことは、今後の米国経済を見ていく上で、1日だけの株価自律反発よりも、はるかに意味合いが重い。
13日に出てきた他の材料で、筆者が注目したのは、ヘッジファンド5社のトップが米下院の監督政府改革委員会で開かれた公聴会で語った内容である。今回の大きなバブル崩壊局面で、的確な歴史観と相場見通しを提示してきているジョージ・ソロス氏が、何を語ったか。報道された内容から、いくつかご紹介しておきたい(引用はロイター、ブルームバーグ英語記事から筆者が和訳)。
「過去8週間に起こったことは、自分の予想を超えるものだった」
「金融システムはまだ、市場におけるとてつもないショックの衝撃を十分に感じ取っていない」
「深いリセッションはいまや避けられない。恐慌(depression)の可能性も排除できない」
「市場におけるバブルの生成を防ぐのは不可能だ。しかし、バブルを認容できる範囲内にとどめることはできる」
「金融工学は規制されるべきで、新しい金融商品は規制当局の認可を得るべきだ。そうした規制は、オバマ次期政権において、優先度の高い政策であるべきだ」
「バブルがいまや崩壊してヘッジファンドの多くが破綻するだろうタイミングで規制を強化しすぎることには反対だ。私は、ヘッジファンドの運用資産が50~75%という規模で縮小するとみている。熟慮されていない、あるいは懲罰的な規制によって、市場を現在混乱させている強制的な現金化の動きを加速させるのは、重大な誤りであろう」
ソロス氏は10月28日時点で、ヘッジファンドの運用資産が半分から3分の2の規模で減少するだろう(=運用資産は半分から3分の1に縮小するだろう)と述べていた。しかしこれは、米議会などによる規制強化を前提としていない数字なのだろう。
金融市場の流動性低下が、何を招いているか。そのあたりの問題意識がないまま、規制・監督強化の議論が先行する場合、金融市場の取引規模が一段と縮小し、流動性の低下ゆえにボラティリティーが相対的に高い状態が恒常化し、ファンダメンタルズからみて妥当とは言い難い水準に相場がとどまってしまう、いわゆるミスアラインメントが起こりやすくなる。
金融サミットでは、攻める欧州と守る米国の間で、いわば哲学の相違があり、規制強化・市場主義修正に積極的な欧州が一方的な勝利を収めることはまずないだろう。しかしいずれにせよ、米国のオバマ次期政権の任期前半である2年程度の期間は、レバレッジ運用などに対する規制監督体制の強化が推し進められる時間帯になることだけは間違いあるまい。