国際金融危機とそれに伴う欧州経済の低迷から、ロシアの欧州向けガスの輸出量は2009年前半で前年同期比で3割以上も減少し、ガスプロムの収益に大きな打撃を与えている。通年での減少は20%ほどの減少と予測されているが、前年に比べ平均販売価格も30%以上落ちることから、欧州向けの売り上げだけで240億ドル前後の前年比減収が予想されている。

ロシア産のガスは欧州市場に販売の3分の2を頼る

ナブッコ・パイプライン計画、経由国5か国が調印

EU加盟4カ国とトルコの5カ国首相は今年7月13日、EUがエネルギー供給のロシア依存を軽減するために構想してきた「ナブッコ・パイプライン」建設の政府間協定に調印した〔AFPBB News

 今年1月、欧州へのガスパイプラインが通っているウクライナとの騒動で2週間の欧州向け供給遮断があり、かつ原油価格に遅れて連動する輸出価格が最高値に達した時期でもあったことから欧州側の買い控えが生じ、その結果、第1四半期の大幅な輸出減少が引き起こされた。

 これはガスプロムもあらかじめ想定内と捉えていたようであったが、第2四半期になっても欧州側の買い付け量は回復の兆しを見せず、これがガスプロムの中で将来的な欧州向けガス輸出に大きな懸念を抱かせるようになったようだ。

 期近での収益が減少するだけではなく、欧州市場にガス販売額の3分の2以上を依存するといったこれまでのガスプロムの収益の成り立ちでは、将来の経営の安定がもはや図れないのではないか、といった見方が以前にも増して強まったわけである。

 対欧ガス輸出の量は第3四半期には改善に向かっている模様だが、それが2007~2008年前半の水準にいつ戻るのかは当の欧州諸国自身にも分からない状況だ。さらに、ガスプロムの経営のレベルで一度懸念に取りつかれてしまうと、あれもこれもの対策に走り出すことになる。

 欧州向けの輸出を目指して開発が進められてきた新規ガス田での生産計画では、その中のいくつかで先送りが始まり、ヤマール半島のボヴァネンコヴォ・ガス田は、生産開始予定を1年延期され(2012年へ)、洋上開発のシュトックマン・ガス田の開発も欧州側のガス需要の見通しを理由に、生産開始計画を遅らせる可能性が取り沙汰されている。

 黒海海底を通る予定のガスパイプライン「サウスストリーム」の方が、バルト海海底を通る計画の「ノルドストリーム」より先に完成する可能性に最近言及したプーチン首相自らが、「ノルドストリーム」のガス源となるべきシュトックマン・ガス田の開発の遅れを認めているようでもある。

欧州の需要減退で中国市場に活路見出す

ガスプロム、バレンツ海底油田の提携企業に仏トタル

モスクワのロシア政府庁舎に掲げられたガスプロムのロゴマーク〔AFPBB News

 過剰なガスを抱え込めないことが理由であろうが、昨年まで年間400億立方メートル以上を輸入してきたトルクメニスタンからの買い付けは、パイプラインでの事故を理由に4月から停止されたままとなっている。

 これは早ければ今年の末にも始まるトルクメニスタンからの中国向け輸出の開始と相まって、同国をさらにロシアから遠ざける契機にもなりかねない。

 こうした短期的な事象の側面だけではなく、より中長期的な問題でも金融危機=欧州市場の需要減少がガスプロムの方針に影響を与えている。

 1つは中国への輸出可能性追求である。価格がまとまらないことを理由に2006年以来進展が全くなかった対中交渉を再度活発化させる動きをロシアは見せている。