浮かれるビッグスリー

米国の新車販売は空前の不振

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 一方、苦境に追い込まれている自動車業界は、「オバマ大統領」に浮かれ過ぎと言ってもいい反応を示した。基幹産業の経営難に対し、ブッシュ大統領が救済の手を差し伸べないだけに、政権交代は業界にとって願ってもない好機。ビッグスリー(3大自動車メーカー)は早速、なりふり構わぬ陳情作戦に乗りだした。

 原油急騰によるガソリン高は一服したが、金融危機の影響は既に実体経済に波及。雇用不安を抱える消費者の財布のひもは固くなるばかりで、米国の新車販売は空前の不振に陥っている。10月単月の販売台数の落ち込みは、ゼネラル・モーターズ(GM)が前年同月比45%、クライスラーが35%、フォード・モーターも29%と軒並み激減だ。

 トヨタ自動車やホンダなど日本勢も苦しいが、深刻度は比べようもない。直接資金調達でも、格付け会社から「投資不適格」の烙印を押されたビッグスリーは、社債発行が困難を極めている。企業活動の血液である現金が漏れ続ける欠陥構造を変えられない業界に、米メディアは「このままなら1年後には資金繰りに詰まる」と予測している。

労組巻き込み、首都へ無心詣で

 そんな自動車業界にとって、オバマ氏が掲げる政策は心地良い。エネルギー法に基づく、業界向けの政府保証付き低利融資を現在の250億ドルから500億ドルに倍増させるなど、実質救済に乗り出す構えを見せているからだ。

 低利融資は、ハイブリッド車など環境配慮型車の生産費用に充てる必要があるが、「生産態勢を整えるリストラ費用にも使えるという拡大解釈は可能」(米アナリスト)。政府支援の道筋は既に出来上がっている。

 ところが、新政権誕生は来年1月。それを待てるほど、今のビッグスリーに余裕はない。このため、3社首脳は6日、民主党のナンシー・ペロシ下院議長に直談判。民主党の支持基盤である全米自動車労組(UAW)のゲテルフィンガー委員長も同席させ、なりふり構わぬ無心に走っている。

将来像描けず、迷走…

 ただ、自動車業界の前途は険しい。現在の経営危機は、販売不振や資金難が直接の引き金ではなく、退職者の年金・医療費負担などの既得権を手放さない労組が元凶だ。このため、「血税を注ぎ込んでも事態は解決しない」(ウォールストリート・ジャーナル紙)との見方は根強い。

 また、自動車業界支援は、オバマ氏の地元イリノイ州だけでなく、大統領選で激戦の末に勝ち取ったインディアナ、オハイオ両州など、工場労働者を多数抱える中西部の雇用対策でもある。

 このため、現在のような景気急減速への対応が必要な時期を過ぎれば、特定産業の保護には有権者や他業界からの反発が必至。ビッグスリー救済が実現しても、「経済合理性を無視し、国民負担増を招く支援はあり得ない」(自動車販売店社長)だけに、業界も安閑としてはいられない。

 自動車業界は取りあえず “祝杯” を挙げたものの、混乱を乗り越えた先のシナリオを描くには懸念材料があまりに多い。自らの将来像を描けないまま、ビッグスリーの迷走が続く。